クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち : インタビュー
ドキュメンタリーの巨匠F・ワイズマンが映す幻想的な官能と芸術の世界
1960年代から裁判所、刑務所、学校や病院などをテーマに、米国の現代社会を切り取った作品で知られるドキュメンタリーの巨匠フレデリック・ワイズマン監督。「BALLET/アメリカン・バレエ・シアターの世界」(95)、「パリ・オペラ座のすべて」(09)に続くダンスをテーマとした新作は、フランスの夜を彩るエンタテインメントショーに完全密着。多角的な視点で華やかな舞台の表と裏を映し出し、観客を幻想的な官能と芸術の世界へいざなう。来日したワイズマン監督に話を聞いた。(取材・文・写真/編集部)
「パリにはいくつか世界的に名の知られたショークラブがあります。ムーランルージュも有名ですが、私はショーを見ながら寝てしまいました。クレイジーホースが一番興味を引かれるショーを見せてくれました」。と語るように、クレイジーホースは、アーティストにインスピレーションを与える場所としても知られ、映画界をはじめ、音楽、ファッションなど各界の第一線で活躍する数多くの人々を引きつけている。
これまでのドキュメンタリー作品では、ワイズマン監督ならではと言えるテロップもナレーションも、音楽もない撮影手法が知られているが、本作では、ムードある調べに乗せ、ダンサーたちの美しい影絵のシーンからスタート。劇中で流れる音楽はすべてショーのBGMをとり込んでいるのだが、過去作に比べてエンターテインメント性の高い仕上がりとなっている。
身体と精神の関係性に着目しており、「BALLET/アメリカン・バレエ・シアターの世界」「ボクシング・ジム」などこれまでも身体運動を映した作品を発表してきた。また、「コメディ・フランセーズ 演じられた愛」、「パリ・オペラ座のすべて」に続き、再びパリの文化をテーマに選んだ理由をこう語る。「フランスで仕事をするのがすごく好きなのです。アメリカにはないテーマや対象がフランスにはあります。アメリカにもシアターカンパニーがありますが、クレイジーホースのように伝統を持つ場所はありませんし、オペラ座のように格式があり、300年にわたる歴史を有しているような場所もありません」
クレイジーホースは前衛的な芸術家として知られていたアラン・ベルナルダンにより1951年に設立された。完璧な肉体と高い技術を持つダンサーの脚やお尻などを強調するエロティックな演出はクレイジーホースのブランドそのものだが、演目を撮影していて発見があったという。「女性同士でレズビアンを示唆するものやエレガントな形でマスターベーションを示唆する演目はあります。しかし、異性間の性交を示唆するようなものが一切ないのが面白いと思いました。また、女性がひとり、あるいは女性同士のグループで見に来ることもあり、これも特筆すべきことです。このファンタジーを作った人は、大衆が実際どういうファンタジーを求めているのかということをある程度感じて、具現化したのだと思うのです。私はそれに驚きました」
今作で初めてハイビジョンカメラを使って撮影した。撮影は10週間、ラッシュは150時間、編集には1年かかったと明かす。「私の趣向としてはフィルムを使っていきたいですが、資金繰りのことを考えると、ハイビジョンに転換せざるをえません」。御歳82歳、精力的に作品を発表し続けるエネルギーの源を訪ねると「Clean Living!(“きれいに生きる”の意)」ときっぱり。長年のキャリアの中での変化については「興味対象は一切変わっていません、唯一変わったことがあるかもしれないのは、映画製作の技術です。それは学んで少しは良くなっているのではないでしょうか。そう思いたいです」と穏やかな笑みを浮かべて謙そんした。