「革新的な映像は良かったものの、後半のストーリーがはしょりすぎ。」009 RE:CYBORG 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
革新的な映像は良かったものの、後半のストーリーがはしょりすぎ。
なんといっても、本作の緻密な映像は一見の価値有りです。フル3DCGでありながら、セルアニメ形式は緻密で、繊細ながらも奥行き感の表現が素晴らしく、2D質感と3Dの立体感の両方のいいとこ取りをしたような斬新な映像でした。ぜひ3Dでの観賞をお勧めします。
さて、物語は『009』が誕生した27年後の今が語られます。といっても、登場の仕方はとてもミステリアス。一切『009』についての説明が為されず、リーダー格の009こと島村ジョーもごく普通の高校生として登場します。ジョーは生みの親・ギルモア博士によってこの30年の間、3年に一度、記憶をリセットされ、高校の3年間を繰り返しているという設定。そしてジョーが同時多発爆破事件に巻き込まれていくなかで、メンバーと出会い覚醒していく幕開けの仕方なんです。
『009』のストーリーを一切知らない人のほうが、かえって謎めいた登場の仕方に、好奇心をくすぐられるのではないでしょうか。
オリジナルの『009』シリーズは、子供の頃テレビで夢中になってみていました。当時は、常人をこえたサイボーグたちの特殊能力に釘付けになってものです。27年経って公開される本作では、オリジナルの個人技よりも、チームで地球レベルの危機に向かっていく規模の大きいストーリーとなりました。
彼らか対峙する同時多発爆破事件の犯人は、なんとアメリカの自作自演。軍事産業と結託して世界をテロの危機で包み込み、軍事費アップで利権を得ようとする産軍共同体だけにやっかいな相手です。しかも彼らもサイボーグの開発に成功しており、サイボーグ軍団対009チームの闘いが描かれます。
『攻殻機動隊』の神山監督だけに、ギルモア博士の研究所を舞台に戦われるサイボーグ軍団との銃撃戦は大迫力。けれども本作は、そんなサイボーグたちのアクションを描くことよりも、もっと崇高な世界観を持っていたのです。それは現代の世界情勢の中で「神とは何か」というテーマ。
同時多発爆破は、アメリカの自作自演だけでなく、“彼の声が聞こえた”という不可思議なメッセージを口々に語りながら、009チームのメンバーまで謎の存在に操られて、破壊行動を起こしてしまっていたのでした。“彼の声”は徐々にエスカレートしていき、ついにはアメリカの原潜を操り、世界中に核の雨を降らせようとします。
“彼の声”の目的は何か。すばり地球を「浄化」し、新たな文明を築くことでした。009チームの活躍で多数の核ミサイルをパトリオットで打ち落とすことに成功するものの、唯一残ってしまった1発の核ミサイルをジョーは身を犠牲にしてまで、止めようとします。このときの003・アルヌールとの別れのシーンは、グッときましたね。アルヌールとはサイボーグでありながら恋仲だったのです。ジョーは『この日のためにボクは活かされてきたんだと思う』といって、アルヌールの手を引き払うかのように、核ミサイルへワープするのです。日々刹那に流されるよりも、何か大きな使命感を抱いて生きるほうが、たとえそれで命が潰えたとしても、生きている実感を強く感じることになるのではないでしょうか。
核ミサイルにワープしたジョーは、そこで目に見えない大きな意志が働いていることに気がつきます。そして“彼の声”とはこの地球の神ではないかと直感したジョーは、全身全霊で、地球文明のリセットを考えている神に向かって、訴えるのです。ネタバレしませんが、いまの地球に危機感を感じている人ならば、感動しうるメッセージでした。
気になるのは、ラストの急な展開。ジョーが犠牲になった後の地球は人類は生存しているようで、しかし大きな災難が降りかかったようではっきりしません。後半になってかなりストーリーが切り詰められたようで、説明不足が否めませんでした。そもそも同時多発爆破事件を引き起こしたアメリカの産軍共同体はどうなったのというのが、途中ですっかり“彼の声”に置き換えられてしまって、どこかに逃亡してしまったことが気になります。またなぜ神が人類を裁こうとしたのか、その理由も語られません。幸福の科学アニメ作品のように、世紀末を描くのであれば、神が文明を滅ぼしたくなる正統な理由が必要でしょう。どうもすっきりしない終わり方でした。