「もう少し009っぽいほうが良かったのかも…」009 RE:CYBORG モジモジショウさんの映画レビュー(感想・評価)
もう少し009っぽいほうが良かったのかも…
映画館で、二回見ましたが…
神山監督が過去に扱った「攻殻機動隊」などよりも、009は原作自体が「より子供向け」で「ギミック」でしょうから、今回のような「筋書き」「背景」に作品世界を押し上げたことは、原作を知っている人たちからすれば、「一気に飛躍しすぎた」と感じるのかもしれません。
子供時代に見た009の「かっこいい」と思わせてくれたセリフやギミックな動き、独特なヒーロー感を、もう少し前面に押し出してくれればよかったかな…とも思うくらい、本作はすごく「大人じみた建て付け」になっています。(私は白スーツ、赤いマフラー時代の009から知っているので)
ただし一方では、この「大人じみた造り」があの才色兼備なフランソワーズを作り出したのだし、またそうでもしないとピュンマや他のキャラのような、それこそ「子供向け専用キャラ」の現代版再現が困難だった事情から、現代によみがえる009としてはこうやって再スタートするしか手が無かったのでしょう…それこそ題の通り「RE:サイボーグ」です。
この作品に限らず現代のアニメのいくつかは、大人をターゲットにしたリメイク作品も多く、よって作品の問題提起や時代背景が、大人というターゲットにあわせた政治的なもの、哲学的なものを取り扱う作品が多くなっていますが、この009もその例にもれず、この類の作品です。
この「現代風アレンジ」と、アニメならではの「子供世界で通じるようなカッコよさ」との違和感の無い「混合」に、作品監督の手腕が試されるところ。
このような視点で本作品を再考してみると、作画の素晴らしさも然る事ながら、神山監督の苦悩が垣間見るようでもあるし、本作品が「絶妙なバランス」で構成されている作品である事を発見できます。「決して万人受けする作品など存在しない」という現実を踏まえれば、「あの009を実に巧く現代に復活させた」と言えるのではないでしょうか。
他のレビューにもあるように、ストーリー性の低評価については、私としては限界があるように思っていて、ストーリー性を深めればサイボーグたちの「本来のヒーロー的な味」が相対的に弱められることになるだろうし、一方、個々のヒーロー性を過剰に強めれば、大人たちをターゲットにすることが出来なくなり、それこそ現代への「RE」が不可能になりかねない…。
ということから、上映版では尺の都合から、様々なシーンがカットされたであろうから、ぜひメディア発売時には、ノーカット版で発売してほしいと思います。それを視聴して初めて、本作の正確な評価ができそうな気がします。
また神山作品の良いところは、ジブリのように、声優に素人タレントなどを登用しないところ。
神山作品の世界観を再現するには、「職人声優」でないと無理だという事情もあるのだろうが、「映画プロメテウス」の主人公=ノオミ・ラパスの吹替えに、アイドルの剛力彩芽を起用し、日本の吹き替え史上に今後歴々と語り継がれるだろう「拭い去れない汚点」を残したあの「事件」を考えれば、
プロモーションや話題性だけを目論んで、作品の質を落とすような愚かな声優キャスティングを、今後も神山作品だけはやらず、今の姿勢を固守してほしいと真に思うところではあります。
ちなみに、本作の主人公「島村ジョー」の声優は、ガンダムダブルオーの「刹那・F・セイエイ」を担当した声優で、本人はバンド活動やタレント的活動もしている、声優としてはしっかりとした力量のある一流の「職人声優」です。