「ひとりぼっちの戦争」J・エドガー 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
ひとりぼっちの戦争
観る側にある程度の知識を要求する映画だと思う。
いつもは映画を観てからパンフレットを買うようにしている自分だが、
今回は「予備知識が無いとキビしいんじゃ……」と心配になり、
事前にパンフを買ってネタバレのなさそうな所だけ読んでいた。
……案の定、読んでないとオイテケボリを喰らう所だった。危ない危ない。
イーストウッド監督って、
いつもまるで呼吸するかのように自然なリズムで物語を語るので好きだが、
今回は展開がややせわしなく感じられた。
時間軸が激しく入れ替わる構成に加え、
アメリカ近代史の事件がぽんぽんと登場するので、
話に付いていくのが少し大変……。
(頭悪いだけと言われればそれまでですがねッ)
世界屈指の捜査機関・FBIを発足させ、その長官の座に48年間も君臨し続けた男、
エドガー・フーヴァーの半生を描いた本作。
一般的なフーヴァー長官のイメージは、
FBIの情報収集能力を利用して政府要人の弱味を握り、
政治の影で暗躍し続けた強権者、ある種の怪物だろう。
だが本作の彼は——
思っていたよりもっとずっと小さくて、弱い。
権力者に対して人が抱くだろう恐怖や嫌悪より先に、憐れみを感じてしまう。
昨年公開の『ソーシャルネットワーク』の主人公と似通ったものを感じた。
誰も信用しない。誰の言葉も聴かない。自分の価値観が全て。
賞賛され、尊敬されたい。相手より優位に立ちたい。
どうしてそんなに力を欲したのか?
何をそんなに怯えていたのか?
結局、彼は一体何と戦っていたのか?
共産主義者? ギャング?
危機管理の何たるかも知らない政治家?
……母親の期待?
母親は息子の性癖に気付いていたのだろう。
だが彼女はそれを肯定するような人間ではなかったし、
(「女々しい息子など死んだ方がマシ」)
ましてやそれを許容してくれる世間でも無かったろう。
彼にとって最大の敵は……
『誰も自分の存在を認めてくれないのでは』という恐怖だったのかも知れない。
蔑まれる事を恐れて虚栄を張る内に、誰からも見向きをされなくなった男。
そんな風に僕には思えた。
唯一エドガーの裏側を理解し、彼がほんの僅かだが自分自身でいる事を許した男・トルソン。
同情の篭った眼差しと共に彼に付き添い続けた秘書・ガンディ。
彼らが居てくれた事がせめてもの救いに思える。
そうでなければ、彼は本当にひとりぼっちだったはずだから。
<2012/1/29鑑賞>