「イーストウッドのらしさが色濃く出た作品」J・エドガー えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)
イーストウッドのらしさが色濃く出た作品
FBI長官に50年にわたって君臨し続けたJ・エドガー・フーバーの生涯を描く。
凄まじいほど倒錯した人間。
司法省の役人時代から理想的な国家の建国を主眼に、共産主義や犯罪者を徹底的かつ独善的に排除する。
情報の収集・整理・体系化や論理武装に天才的な才能を発揮する一方で、折々の有力な政治家たちのスキャンダラスな情報までをも収集し、躊躇なく強請の道具として活用、誰も手出しのできない、絶対的な権力を長年にわたって堅持した。
他方、強烈なマザー・コンプレックスを抱え、女性恐怖症のキライがあり、同性愛者であり、恐らくは先天的に吃音を持つ。そのくせ、ナルシシズムが病的に強く、注目を集めるためだけに、口述で伝記を書かせたり、著名人との会食をしばしばセットしたり、虚言も吐く。
しかしながら、イーストウッドとディカプリオが見事だなーと思うのが、この倒錯がひとりの人間として、適切に調和している点。
人間は神でもロボットでもないのだから、絶対的に善でもなく、絶対的に悪でもない。けれど、個としては一貫して調和しているという、誰しもが(程度の差はあれ)持つ”揺らぎ”を絶妙に描ききっている。
さすがに、老齢の特殊メイクは若干無理があったものの、イーストウッドのらしさが色濃く出た作品。
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