「原田知世氏の素朴で女優として完成されていない初々しさや古風な透明感、少女から大人に変わる彼女の刹那をフィルムに収め、魅力を引き出した大林宣彦監督の見事な演出が秀逸です。」時をかける少女(1983) 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)
原田知世氏の素朴で女優として完成されていない初々しさや古風な透明感、少女から大人に変わる彼女の刹那をフィルムに収め、魅力を引き出した大林宣彦監督の見事な演出が秀逸です。
惜しまれつつ25年7月27日に閉館する「丸の内TOEI」さんにて「さよなら丸の内TOEI」プロジェクトがスタート。同館ゆかりの名作80作品以上の特集上映中。
今週は角川映画特集。
『セーラー服と機関銃』『時をかける少女』の豪華2本だて。
『時をかける少女』(1983年/104分)
わたしにとって本作含む大林宣彦監督の手がけた『転校生』(1982)、『さびしんぼう』(1985)の尾道三部作および『ふたり』(1991)、『あした』(1995)の新尾道三部作は、まさに思春期に観て、魅了された至高の特別な作品ですね。
何といっても本作で映画デビューを果たした原田知世氏の素朴で女優として完成されていない初々しさや古風な透明感、少女から大人に変わる彼女の刹那をフィルムに収め、魅力を引き出した大林宣彦監督の見事な演出が秀逸です。
タイムリープというSFジャンルではあるものの、誰もが思春期に通過、経験する恋を知った少年少女たちの揺れる心の機微と葛藤、惹かれ合う者同士が互いの記憶を無くさなくてはならない永遠の別れ、そして数年後大人になった二人がすれ違いざまにふとお互いを微かに気づくラストは、何度観ても涙が溢れます。
エンディングでカーテンコールのように原田知世氏がキャスト陣と歌う主題歌『時をかける少女』は作詞・作曲:松任谷由実氏が手がけた映画音楽の名曲、原田氏の瑞々しい歌声も良いです。今でいうミュージックビデオ風の演出で驚きですが、彼女の魅力を最大限発揮させたアイドル映画としてはこれ以上ないラストです。
その他演者では、息子夫婦と孫を事故でなくした老夫婦をベテランの上原謙氏と入江たか子氏が哀愁たっぷりに演じたところが流石、実に印象深いです。
そして大林宣彦監督映画の常連、本作では和子の幼なじみ五朗を演じた尾美としのり氏の和子に対するほのかな愛情と優しい眼差しが観ている方も感情移入ができて良いですね。
本作のもう一つの魅力は坂が多い古き尾道の街並みと空気感。
古風な原田知世氏の魅力にぴったりな佇まいですが、小津安二郎監督が『東京物語』(1953)でも同地に魅了されフィルムが無くなるまでカメラを回し続けたと言われるように実に魅力的。
昔ながらの瓦屋根や光が差し込む格子を実に上手く活用、構図に取り込んでいますね。
松任谷正隆氏の劇伴とも実にマッチしています。
そして長い石階段も画面に奥行きと上下の動きも演出できるので、映画としては街の空気感ともども実に良い舞台です。
今観るとSFジャンルとしての派手な特殊効果などもありませんが、キャスト(原田知世氏)、舞台(尾道)、音楽(松任谷正隆・松任谷由実)、そして大林宣彦監督の確かな演出で、令和の今観ても一切古さを感じさせない、不朽の青春映画の傑作ですね。