「分断された世界で分裂する人間性」ディヴァイド 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
分断された世界で分裂する人間性
NYで核爆発が起き、地下シェルターに逃げ込んだ9人の男女。
放射能の恐怖、限られた食料、不衛生な密閉空間、互いへの不信感、そして謎の襲撃者……
絶望的な状況に晒される内、9人は恐怖と狂気の淵へと追いやられていく——
ってな感じの終末SF映画。
何とは無しに鑑賞したのだが、最初に総評から言っちゃうと……
『凡作とは言わないが秀作とも言えない』というビミョーな印象でした。
コミュニティを暴力で支配する者が現れ、力の無い者は
支配者側の欲望の捌け口となる他無いという後半の展開。
この手の映画をあまり観た事無い方には十分衝撃的な内容かも知れないが……うーむ。
本作と類似のテーマは色んな映画や本で描かれてきたわけで、
(『ブラインドネス』とか『蝿の王』とか)
それらと比較するとやはり新味に欠けると感じたし、
本作ならでは!と唸るような展開がある訳でも無い。
聖書からの引用と思しき台詞はあるものの、示唆に富んだ作品という程でも無い。
平たく言ってしまえば、少し退屈。
あとはラストも不満。
最後に映し出される荒廃した街並みには確かに絶望感を煽られるが、
これも予定調和以上のものとは感じられない。
おまけに、結局誰がどうして自国に核爆弾を落としたのか
(台詞から察するにたぶん自国だよね)、
どうして子どもをサンプルのように扱っていたのか、
またその子どもがどうなったのか等は不明のまま。
何だか、石ころでも飲み込んだようなゴロゴロとした消化不良感が残った。
いや、ま、作り手が一番描きたかったのは、極限状況に巻き込まれた人々が
人間の醜悪な部分をさらけ出してゆく過程だったのだろう。
それを描きたいだけなら確かに「この不条理な状況はなぜ生まれたのか?」
という謎に対する回答は必ずしも必要では無い。
だけど、前半でその謎を追うそぶりを見せておいて、
後半その辺りを完全放棄ってのはどーなのかしら。
これでは謎の特殊部隊の正体を探ろうとする前半の大きな流れがまるごと、
観客の集中力を途切れさせない為の単なる“場繋ぎ”だったとしか思えない。
うむー、なんか不満タラタラのレビューになっちゃったなあ……。
ただ、マイケル・ビーンは抜群に良かった。
強権的で脆い人物だが、物語中で一番人間的に振る舞おうとしたのは彼だった気がする。
彼が最後に見せるどこか安らいだ表情が、重苦しいこの映画で唯一の救いだった。
<2012/8/25鑑賞>