灼熱の魂のレビュー・感想・評価
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悲劇の連鎖への終止符
静かなレバノンの一角地の映像から始まるこの映画。
ラジオから流れるように、レディオヘッドの曲が流れ始める。
強い眼差しでカメラを、何かを見つめる少年はすでに何かを悟っているようだ。
そして映像はカナダのシーンに映り、映画は始まる。
もうこの時点で鳥肌ものであった。
音楽は少ない。
ゴダールの映画のように、シーンごとにタイトルが表現される。
このように映像表現はスタイリッシュ。
だが、内容は壮絶だ。
母の壮絶な人生を辿る旅の先にあるものは…
レバノンでの母の人生を辿っていくごとに、見るに耐え難い映像と映画の中の事実が描写され続けていく。
それは、ニュースや書物からでは表面的にしか分からなかった、現実の中東があった。
やはり日本は平和であると今でも思う。
壮絶な母の人生を知っていく度に、背けたくなる現実を受け入れに迷いつつ進む兄弟が最後に決断したことは、揺るぎもない母の愛からである。
憎しみは憎しみしか生まない。
戦争は戦争しか呼ばない。
負の連鎖を止めるに母がした行為は
涙が止まらなかったし、言葉にならなかった。
それを受け入れた兄弟とその兄の心。
何があってもあなたたちを愛してるという
母の言葉は何よりも重い。
これほど衝撃的な映画はなかなかない。
内容はもちろん、映像・音楽まですべてのバランスがいい。
名作の1つだ。
信念とも言える魂に静かな感動を覚える
新聞の評論を読んでみにいこうと思っていてつい見そびれていた。
双子の姉弟に残された母親からの謎めいた、叙事詩のような遺言と2枚の手紙。一枚はあなたたちの兄へ、もう一枚はあなたたちの父親へ。この手紙が手元に渡ったとき、遺言は完成し、すべてが動き出す。反発する弟を尻目に、姉は母の人生を追い始める。
母親が生きてきた人生は灼熱という言葉ではとても表せない。熱く激しく、壮絶。その人生で生きた魂には、すべての出来事、歩んだ奇跡、感情などのなにもかもが深く刻まれた皺のように確かなものとして、くっきり浮かび上がっている。生き別れになった、愛する恋人との息子を探す母。それは運命なのか宿命なのか、翻弄され、最終的にどこへ行き着くのか見当もつかない。
2本あると思いこんでいた糸が次第に1本につながっていくさまは圧巻であり、見応えがあった。最後にわかる事実は重苦しいが、すべてを受け入れた姉弟のすがすがしい表情に希望を感じた。
母親の愛が…
素晴らしいの一言。
母親が亡くなり遺言を公証人が双子に読み上げるシーンで始まり、双子が兄と父を探しに出る。
姉弟が母の過去をたどり、母の時代に遡る展開を繰り返しながら物語は進んでいき、少しずつ複数の糸が繋がっていく。
そして緊張感のあるヒューマンサスペンスは衝撃的なラストを迎える。
全ての過去と現在がリンクした時、観客を母親の『愛』が優しく包み込み、その『愛』に胸を打たれる。
この衝撃的なラストに導く物語の進め方が実に素晴らしく、まさに圧巻。
戦争の中にある複雑で重い問題を映し出しながらも家族の愛、母性愛をしっかり描きだせていた事で『重さ』が物語により一層深みを与えていた。
役者の演技も素晴らしく、なぜアカデミー賞外国語映画賞を取れなかったのか不思議です。
がつんと来るドラマ。素晴らしい
民族紛争の悲劇の実態を少し描いた作品。特に日本人にはこういった紛争に無縁すぎて、戦争と民族紛争との違いが理解できないけれどもこの映画はその理解のヒントを与えたくれる。
数奇で悲惨な運命の物語。
レバノン出身のカナダ人の老女が亡くなり、二人の子供に遺言状が渡される。実は二人には兄がいること、そして父親を捜してその二人にそれぞれ手紙を渡してほしい。それがかなったら初めて墓碑銘に名前を入れてほしいという謎めいた遺言。母親の過去を探る旅。その衝撃のドラマの数々。
エンディングで「悲劇の連鎖を断つため、沈黙は守られ、そして約束は果たされた。」という遺言の謎の言葉がでてくる。この約束とは何か。
主人公が神に誓った愛の約束である。
何があっても子供たちを愛するという約束。
陰惨で恐ろしい場面も多数登場する。
息が詰まるような情景。
涙無くしては見れない、愛の物語である。
原題名は「焼かれ尽くされた魂」
ひたすら重く、酷い映画。
原作はレバノン出身のカナダ人劇作家ワジディ・ムアワッドの戯曲「焼け焦げる魂」。去年日本でも初上演された。
時は現代、初老の中東系カナダ人の女性が亡くなる。彼女は自分の双子の子供たち、姉弟にも、自分の心の中を見せず生きてきた。が、二人には遺言を遺した。それは、今まで知らされていなかった家族、実の父と兄へ宛てた二通の手紙だった。彼は、その手紙を届けるため、父兄を捜すうち、母親の壮絶無比な過去を知ることとなる。
映画では具体的に描かれていないが、背景として1970年代、中東レバノンでおきた内戦をモデルしている。
宗教、民族、イデオロギーが混沌とした状態にあったなか、それらがもたらす暴力と憎悪の連鎖、そしてそこに湧き上がる人間の業をギリシャ悲劇の型を借りてあぶり出していく。
母親は自分な壮絶な過去を語ることで、子供たちの世代に悪夢の連鎖を残さないとでも思ったのだろうか。だが、結果として残されたのは、彼らの心に深く沈む重荷だけである。それはこの映画を観た観客も同様。
しかし、それでも人間は生きていかなければならない。それがまさに。人間の業、だ。
1月17日 日比谷・TOHOシネマズシャンテ
これは“老母が神に命を捧げた詫び”だ
かなり重い内容の映画である。
突然の母の死。生前、多くを語らなかった母の遺言で、残された双子の姉弟は父と兄の存在を知る。そして父と兄に宛てて遺された手紙を届ける宿命を背負ってしまう。何処に住んでいるのか? 生存しているのかさえ判らない父と兄を探す旅が始まる。
あらすじだけを読めばミステリーということになろうか。
問題は、母が生まれ育ったのが内紛で政情が不安定な中東だったということ。事の発端は今から40年前まで遡る。
日本が大阪万博でお祭り騒ぎしていた時代だ。
同じ時代に、愛するものを奪われ、命がけで子を守り、信念に向かって生き、そして自由を奪われた人々がいたことを思うと、平和が当たり前のように生きてきた身として、なにか後ろめたい気分にさせられる。
子供でさえ生き抜くために銃弾を放つ国に、双子の姉弟のルーツが隠されている。
これ以上はネタバレになるのでストーリーには触れないが、母親はどこかで真実を知って欲しかったのではないか。子供たちに詫びようにも自らの口で語るには過酷すぎて、遺言という形でしか訴える手段がなかったのだろう。そしてきっと、自分の祖国を、現実を、しっかり子供たちの目で見て欲しかったのだ。
背負った十字架を命で償おうとする強固な決意が、自らの命の灯火を消したに違いない。これは“老母が神に命を捧げた詫び”だ。
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