「これは“老母が神に命を捧げた詫び”だ」灼熱の魂 マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
これは“老母が神に命を捧げた詫び”だ
かなり重い内容の映画である。
突然の母の死。生前、多くを語らなかった母の遺言で、残された双子の姉弟は父と兄の存在を知る。そして父と兄に宛てて遺された手紙を届ける宿命を背負ってしまう。何処に住んでいるのか? 生存しているのかさえ判らない父と兄を探す旅が始まる。
あらすじだけを読めばミステリーということになろうか。
問題は、母が生まれ育ったのが内紛で政情が不安定な中東だったということ。事の発端は今から40年前まで遡る。
日本が大阪万博でお祭り騒ぎしていた時代だ。
同じ時代に、愛するものを奪われ、命がけで子を守り、信念に向かって生き、そして自由を奪われた人々がいたことを思うと、平和が当たり前のように生きてきた身として、なにか後ろめたい気分にさせられる。
子供でさえ生き抜くために銃弾を放つ国に、双子の姉弟のルーツが隠されている。
これ以上はネタバレになるのでストーリーには触れないが、母親はどこかで真実を知って欲しかったのではないか。子供たちに詫びようにも自らの口で語るには過酷すぎて、遺言という形でしか訴える手段がなかったのだろう。そしてきっと、自分の祖国を、現実を、しっかり子供たちの目で見て欲しかったのだ。
背負った十字架を命で償おうとする強固な決意が、自らの命の灯火を消したに違いない。これは“老母が神に命を捧げた詫び”だ。
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