「物語の力(家族の秘密と世界)」灼熱の魂 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
物語の力(家族の秘密と世界)
2010年。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督。中東系カナダ人の母親が死んで双子の娘と息子に不思議な遺書が残される。いないはずの兄と父を探して手紙を渡せ、それまでは墓碑銘を入れるな、という内容。途方に暮れる二人だが、娘は母親の故郷に向かう。そこで次々と母親の生涯が明らかになって、という話。
戯曲が原作とあって物語の力がすごい。出生の秘密、宗教対立、中東と西側諸国、要するに、家族の秘密を探りながら世界を探究する話。過去を織り交ぜながらの語りが極めてスムーズで、神話的でありながら現実的な物語の世界に自然に引き込まれていく。踵の傷と近親相姦ってオイディプスそのままではないか。
ラストでいかにも意味ありげに満足な表情をする公証人に違和感を感じて振り返ってみると、劇中でもちょいちょい家族の話に顔を出していたことに気づく。最初からすべてを知っていたかのように、あるいは、真実をジャッジするのは俺だというように。真実の追求をうながすこの公証人は死んだ母親の上司であり、劇中でたびたび「家族の一員のようなものだ」と言い訳めいたことを言うのだが、それは言わない方が、ただ死んだ母親の遺書を厳格に執行する公証人というだけの資格で関わった方が、カフカ的でおもしろかったかも。
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