「月の孤独」アポロ18 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
月の孤独
『恐怖は人類最古の感情』と語ったのは
モダンホラーの始祖とされる作家H・P・ラヴクラフト。
彼の著作には頻繁に——いやもうやかましいくらい頻繁に(笑)
“宇宙的恐怖”という言葉が登場する。
これは『人の理解を絶対的に拒絶する存在への恐怖』みたいな意味合いの言葉らしい。
宇宙が舞台の本作を観て安直にこの言葉を連想した訳だが、
実際、本作ではこのラヴクラフト作品を読んだ時に近い恐怖を味わえた。
宇宙的恐怖イェーイ。
『遊星からの物体X』『エイリアン』『スフィア』など、
僕はどうも“孤立した空間で怪異に遭遇”という設定に弱い。
そして本作の舞台は月面。これ以上の“孤島”があるだろうか?
息が詰まりそうなほど狭い居住空間にふたりぼっち。
この状況で恐怖に晒され、おまけに外部との連絡も途絶え……
まさしく悪夢である。
ビックリ箱的恐怖演出は『パラノーマル・アクティビティ』等にはやや劣るが、
宇宙という馴染みの無い空間の面白さも手伝ってか、物語展開は『パラノーマル〜』よりずっと楽しめた。
ざりざりと粗い記録映像も『いかにも』な感じで出来が良い。
そもそも主人公らが映像記録を残す理由も明確なので、
これまで観たPOV作品以上にリアリティと説得力を感じる。
ま、肝心の怪異の正体にはあんまり現実味のある恐怖を感じなかったけど。
デカい蜘蛛か蟹のようなフォルムは気色悪いし、
顔から大量のアレが噴き出すシーンには顔が引きつったが、
やっぱり他の生物に“似てる”と感じた途端に、
正体不明の存在に対する恐怖は薄れてしまったかな。
これはかなりかなり個人的な意見だけど、
もっとこうヌメッとした、どこが脚か頭かも分からない不定型な生物や、
どんな生物とも似つかない異様なフォルムの生物が見たかった。
全く理解できない、意志疎通の可能性が持てないものに対して人が抱く恐怖。
それって極めて強固な恐怖だと思うので。
最初に述べた3作品では、その恐怖を感じた。
あと欲を言うなら、物語展開にもうひとヒネリが欲しかった。
ソ連の船に関するくだりや、録音テープの息子の声とかは面白いが、
感染して意識を乗っ取られる展開ってのはかなり安直かな。
ともあれ、楽しめた!
七夕の時期に相応しいホラーです(?)。
ところで、「♪ダークサイド・オブ・ムゥ〜ン」と陽気に歌う
あのエンディング曲の選曲は割と底意地が悪いと思う(笑)。
<2012/7/7鑑賞>