「チョコレートみたいに甘くて微かにほろ苦い」ロラックスおじさんの秘密の種 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
チョコレートみたいに甘くて微かにほろ苦い
『怪盗グルーの月泥棒』を手掛けたイルミネーションスタジオの新作CGアニメ!
今回も楽しくて素敵な映画でした。
序盤こそ気持ちが乗り切らないが、中盤、商人ワンスラーが
森の番人ロラックスと出会う辺りからが楽しい楽しい!
偉ぶってみせるが実は好々爺なロラックスは勿論、
キュートな子熊フィップスクイーク、魚のコーラス隊など、
ワンパク過ぎる動物たちが可愛い!笑える!
毛皮AEDなんて素晴らしいアイデア(笑)。
ロラックス役の志村けんの吹替も上々。
茶目っ気と暖かみを感じるステキな声音だった。
それとトータス松本の吹替が!ハマりにハマっている!
「♪俺は悪くない〜」と利益優先主義を皮肉たっぷりに歌い上げる劇中歌は、
彼の新作アルバムに収録して欲しいほどの出来。
ま、不満点もあります。
今まで誰も街の外へ出なかった理由とか、
オヘア社が街を牛耳るようになった経緯とか、
物語のディテールをお伽噺に求めても意味がないと思うので、その辺りはあまり気にしてない。
けれど、自然の素晴らしさと憧れを謳うのであれば、
プラスチック製の街・スニードビルはもっと無機質に、
あるいは添加物たっぷりの毒々しい感じに仕上げてほしかった。
森と街の色彩や質感にあまり差異が無いので、
最初にワンスラーが森を発見した時の感動や、
人々が自然を渇望する気持ちが今ひとつ伝わらなかったんすよね。
あとはやはりピクサー作品と比較しちゃうと、
アクションシーンの疾走感や画の密度は物足りない感じかなあ。
だが僕が一番心惹かれたのはアクションではなく、
ワンスラーとロラックスをめぐる物語。
『森を切り倒すと自然から報復される』とロラックスから脅されたワンスラー。
だが、彼が被った呪いは自然からの報復なんかではなかった。
私欲の為に無垢な動物達の棲み処を奪い、大切な友人をも失ってしまったという後悔。
良心の呵責こそが、彼の背負った呪いだった。
長い長い“呪い”からワンスラーが解放される、ロラックスとの再会の場面。
ささやかな、けれどもじんわり心に沁みる優しい結末に涙ぐんだ。
カラフルで愉快な世界を楽しみつつ、
環境破壊で消えてゆく動物達を憂い、
利益ばかり求めて優しさを失ってゆく自分を憂う。
チョコレートのように甘ったるいが、微かにほろ苦い——そんな映画。
小さな子どもも楽しめて、大人のハートも揺さぶれる、懐の広い良作です。
<2012/10/7鑑賞>