逆転裁判 : インタビュー
クライマックスとなる裁判のシーンで印象的なのが、重要な“証人”として登場するオウムの「サユリさん」との共演。本人も最も気に入っているシーンだ。
「サユリさんとは、髪型が一緒でしたね(笑)。けっこう人見知りするタイプだったけれど、僕とは仲良くしてくれました。動物とのやり取りは、飼い主さんも含めて自分が一番だと見せ付ける瞬間をつくると言うことを聞いてくれるんです。それに、彼女はあまりやりすぎるとストレスを感じて集中力がなくなっちゃうので、僕もものすごく集中しました。台本にはないアドリブもいっぱいあるんですよ」
初参加となった三池組は、貴重な体験の連続だったようで「僕も三池さんのファンになりました」ときっぱり。主演という大役を務め上げ、その表情には充実感がみなぎっている。だが、出演作を見たときには、その後の取材などのために“おすすめポイント”を考えるそうだが、「逆転裁判」に関しては相当悩んだという。
「成歩堂は、現代に生きている人の夢と希望。まっすぐで、どんなことがあっても諦めない。信念を曲げずに最後は打ち勝つ瞬間はスカッとする。説明、ジャンル分けが難しいけれど、濃密なぶっ飛んだ世界を2時間15分にギュっと詰めた新感覚な作品。今は映画やテレビもあまりディープなものを見せない作品が増えている中で、こういうアプローチのエンタテインメントもありだし、参加して良かったと思いました」
2000年、宮本亜門演出の舞台「滅びかけた人類、その愛の本質とは…」に10代で出演し、翌01年の「溺れる魚」で映画デビュー。以降、映画やテレビなどのジャンルにとらわれず活躍し続けてきたが、「こんなに長くこの仕事を続けていられるとは思っていなかった」という告白は意外だ。
「けっこう自分に対してシビアに見ているので。20代前半は生き急いでいて、20代しか面白くない、30代になったら何も面白いことがないと思っていたんです」
今年9月に、その30歳を迎える。成長の過程で心境にも徐々に変化が生まれたようで、昨年、俳優として生きていくことを決めた。
「30歳を過ぎてから仕事を変えるというのは、僕の美学の中にはない。自分には他にも何かあるかもと期待している部分はあったけれど、俳優としてこれ一本でいこうと腹をくくりました。29歳と30歳の間に大きなものは感じないけれど、節目ですから。俳優として、僕より若い世代に知ってもらうのは簡単なことかもしれないので、これからは僕より上の世代の人に興味を持ってもらえるような仕事のチョイスも必要だと思います。この映画(『逆転裁判』)はどちらかというと若い世代向けですけれど(笑)」
冗談めかしながらも、しっかりと新たな方向性を見いだそうとしている。なんとも頼もしい限りで、年輪を重ねていくことでさらに演技の幅、深みが増していくだろうという期待が膨らんだ。