劇場公開日 2011年6月18日

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「あの人の瞳に映った俺が、好きだったのさ」あなたの初恋探します ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5あの人の瞳に映った俺が、好きだったのさ

2011年8月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

知的

幸せ

本作が劇場映画デビュー作となるチャン・ユジョン監督が、「ハピネス」などの作品で知られるイム・スジョンを主演に迎えて描く、ラブストーリー。

初恋の人に、再会したいか。不意にそんな話を始めた時に、知人が語った言葉が印象深く残っている。「俺は、初恋の人が今どうしているかに興味はないんだ。今、思い返してみれば、初恋の人が愛を持って見つめてくれた自分の姿が、俺は好きだったんだよ」

ともすれば「おめでたい事ですね」と鼻で笑ってしまうところだが、実の所真理を突いていないと断言も出来ない。初恋という特別な出来事自体が、相手ありきの恋愛とは違い、極めて個人的な感情で完結する特異な「愛」の世界。「じゃあ、会いに行けば?」と短絡的に解決できない心の葛藤は、ここから生まれるのかもしれない。

さて、本作である。長身の男女、マシンガンの如き会話の応酬、昭和人情、「おいらはフーテンの〇さんよ」のドタバタギャク、そしてひたすらに甘いラブ描写と、まさに韓国印を地で行く軽妙ラブストーリーである。

初恋の相手を、本気で探す。そんな突拍子も無いテーマを軸に描きながらも、どこか内向きに、前に進む勇気を持てない現代女性の弱さ、可愛らしさ、繊細な心の葛藤をアクティブな笑いの要素に絡め、娯楽色豊かに描き出す演出の確かさが光る。

主演のイム・スジョンをいかに魅力的に描くかに腐心したために、物語の流れが散漫になってしまった弱さは多分にあるが、その多彩な要求に無理なく、無駄なく応えきったイムのキュートな味わいが機能し、破綻を巧妙に交わしている。

相手役を演じるコン・ユの恥ずかしげもない壊れっぷりも嫌味を感じさせず、安心して観客を笑わせてくれる確かな表現力を表出。役者の力量と可能性を遺憾なく発揮し、初恋の甘酸っぱさと難しさ、それでも恋愛へと突き進む人間の輝きが楽しめる一品である。

「あの人の瞳に映った俺が、好きだったのさ」・・・こんなアンニュイな台詞をアンニュイに語る知人が、私はそれほど嫌いではない。彼は、誰よりも秋が似合う男である。

ダックス奮闘{ふんとう}