「線路下で、吠える」モテキ ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
線路下で、吠える
テレビドラマ版「モテキ」の演出が高い評価を集めた大根仁監督が、「世界の中心で、愛を叫ぶ」の森山未來を主演に迎えて描く、恋愛コメディ映画。
金なし、夢なし、彼女なし・・。何やら残念な境遇の元にくすぶっている一人の男性、藤本。そんな彼の前に突如として現れた四人の美女。恋に恋する男の暴走、妄想を、猛スピードの独り言と物語展開で描き出す。
文字通り、四人の個性的な味わいと愛らしさを一本の映画で楽しめるというのが本作の大きな魅力。
長澤、麻生、仲に真木。それぞれに場数を重ね、自らの個性とセールスポイントを理解し尽くした女優陣が思う存分ハイテンションコメディの中で暴れ回るあっけらかんとした陽気さと、爽快感。これだけでも、身銭を切って映画館に足を向ける価値があるというものだ。
可愛さと弱さ、そして貪欲な女の欲望を一人で抱え込み、体当たりの新境地をみせる長澤の器用さにも感心させられる。しかし、それにも増して特筆すべきは、清純そのもののように見えて実は、実は・・・の女性を力強く演じ切る麻生の強烈なインパクトにあるだろう。
その衝撃を確認できる場面こそ、終盤、とある事情で口論となる森山扮する藤本との一幕。線路下の、暴走。
「ごめんなさい。私、頑張るから。勉強するから。あの動画、ユーチューブで見るから!」涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で髪を振り乱し、藤本にしがみ付く。「おお~、おお~」と低く吠える泥臭さ、必死さ、小ささ。その後の展開よりも、美人の形相をかなぐり捨てて泣きじゃくる麻生の汚さ。
思わず、胸が騒ぐ。汚い・・は違うか、むしろ憧れる。ここまでぶちまける愛情の形、素敵である。それを嘘くさくなく見せるのも、また格好良い。
出演女優それぞれが、自分に対して観客が抱くイメージを正しく形にしながらも、微妙に先入観を崩して魅せてくれる個性に満ちたファンタジー。今の時代において貴重な、「女優映画」の最先端の形がここにある。