劇場公開日 2012年2月18日

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「イタ、キモチヨ、イ、ギャップ」セイジ 陸の魚 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5イタ、キモチヨ、イ、ギャップ

2012年5月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

知的

「あしたのジョー」などで、俳優としても高い評価を集める伊勢谷友介が監督を務めた、「CUT」の西島秀俊、「モテキ」の森山未來のダブル主演で描く青春群像劇。

ストーリーとしては、いたってシンプルである。未来に対して漫然たる不安を抱える青年が、旅の果てにたどり着いた片田舎のドライブイン。そこで出会った、心に深い闇を抱えた男性との交流を通して、生きること、自分自身、そして自分を包む世界を知る。

ベストセラーとなったらしいが、決して高い注目を集めた訳ではない原作の映画化。スタートからの悪条件を覆し、なぜこの物語が大手配給会社の手に掛かる作品となったのか。それは、言わずもがな。

監督が、伊勢谷友介だから、である。

映画、テレビドラマにおいて、女性を中心に多くのファンを獲得している人気俳優、伊勢谷友介。どこか間の抜けたしゃべり方をしておきながら、その内容を聞いていると、実は世界を見つめ、正しく批判する鋭く、危険な知性に満ちている。私自身、そのギャップに強く興味を抱いている。

8年振りにメガホンを撮ったという本作でも、その不穏なギャップを強く感じさせてくれる。

森山未来、西島秀俊。津川雅彦。どんな作品で拝見しても、どこか「ああ~めんどい」な空虚感、斜に構えた皮肉溢れる味わいが魅力の役者をメインに据えるキャスティングに予測する脱力世界。前半部に散りばめられた、柔らかいユーモアとのんびりした空気は、まさに一昔前の日本映画が得意としていた「ゆるい」ドラマ。

だが、物語を読み進めて気が付くのは、その冷たさ、鬱屈、違和感に満ちた不条理。血に溢れ、痛みが暴れだし、まさかの結末・・・。それは、これまで青春という言葉を後ろ盾に、陳腐な恋愛ドラマで満足してきた日本映画にはない厭らしさがある。怖いのは、怖い。だが、その裏で確かに息づく冷酷な世界に立ち向かう視線、意欲に、観客は少なからず安堵し、勇気を持てる。

これは、何だ。批判覚悟で言えば、そう、痛、気持ち良い。そういう事だ。

ここまで、自分の魅力を作品に強く反映させる映画監督も珍しい。掴みどころのない端正なルックスの中に潜む、毒、傷。「どっか、危ないぞ」この切れ味良さそうな雰囲気に、大手のバイヤーさんは魅せられ、全国配給に乗っけた。

単純に西島の美しさ、森山の儚さで目の保養が出来ると考え鑑賞する素敵女子を、徹底的に叩き潰す闇。そうか、ここにもあったか、危険なギャップ。

映画監督、伊勢谷友介のもつ批判精神。そして、その危険な棘を巧妙に隠して女子を誘い込む、技をまざまざと見せつける一本。この妖しさは、きっと、癖になる。

ダックス奮闘{ふんとう}