「衝動よ、妄想よ、目覚めよ!」サンザシの樹の下で ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
衝動よ、妄想よ、目覚めよ!
「初恋のきた道」などの作品で知られるチャン・イーモウ監督が、新人女優チョウ・ドンユィを主演に迎えて描く、ラブストーリー。
「恋愛」というキーワードを軸に、映画を創る。その単純明快な挑戦が、ここまで難しくなった時代は無かっただろう。某県の10~20代男女に行ったアンケートでは、実に8割の男女に恋人がいないという真実が浮き彫りに。「なぜ、恋人がいないのですか?」という質問に「必要性を感じられない」「面倒くさい」という答えが大半を占める現実。
コレハ・・・コマッタ。
多くの映画人が、頭を抱える時代が目の前に広がっている。観客を暗闇の芸術に誘い込む一つの大事な要素が「面倒くさい」の一言で蹴散らされようとしているのだ。だからこそ、昨今のラブストーリーは失恋から始めてみたり、体の関係から始めてみたり、「奇抜と異色」の物語へと変貌を遂げ、何とか注目を浴びようと躍起になっている。
その中で、現代中国映画の代名詞チャン・イーモウが果敢に切ったカード。それは、余りに真っ直ぐで、余りに繊細で、余りに可愛い恋愛劇だった。
文化大革命を背景に、惹かれては離れを繰り返す一組の男女の恋を描き出す本作。多少、コメディの要素を挿し込んではいるが、基本は使い古されたラブ描写を徹底して畳み掛ける純粋無垢な世界が展開される。一本の映画作品として批判するのは非常に難しい、挑戦とは真逆の安心感ここにあり。観客は大いに困惑すると同時に、その美しさに思わず涙が溢れ出すのを止められない。
この作品が、今の時代に生まれた理由。それは、「恋愛」がどれだけ、人を突き動かす力を持つか、くすんだ世界を塗り替える可能性を秘めるかを、私達に叩き付けることにある。先の見えない未来に、ラブストーリーが必要か否かを考えされることにある。それは果ては、映画が貴方に必要かを問いただすことに繋がっていく。
なまりきった感情よ、衝動を忘れた妄想よ、目覚めよ!清潔な恋愛物語が今、その暗黙のメッセージを叫びだす。その輝きを、映画界に革命をもたらしてきたイーモウが示したのは必然なのかもしれない。
何はともあれ、素直に心を潤したいという目的で観ていただきたい。そして、ちょっと考えてみてはいかがだろう。
私に恋愛は、映画は、物語は、必要か?