「銀幕の前でブルーザー・ブロディ復活を叫ぶ」ドラゴン・タトゥーの女 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
銀幕の前でブルーザー・ブロディ復活を叫ぶ
鬼才デビッド・フィンチャー待望の最新作だが、哀しいかなぁ…。
オープニングで、けたたましく鳴り響くレッド・ツェッペリンの『移民の歌』が耳に入ると、たちまち本筋とは関係無く、《哲学獣》ブルーザー・ブロディの勇姿を真っ先に思い浮かべてしまう。
レトロプロレスオタクの呆れた性分やと一蹴されたらそれまでだが、イヤハヤ一概に笑われる筋合いは無い。
魑魅魍魎うごめく戦場で異常なまでにプライドとファイトマネーに固執し、破滅した人生は、今作の男女のほとばしる狂気に深く当てはまっているからである。
『セブン』『ゾディアック』etc.猟奇殺人を追跡する物語を十八番とするデビッド・フィンチャーだけに、暗闇を血肉で引き裂く残酷描写は健在。
また、地域を牛耳る一族の忌まわしい陰謀に振り回される横溝正史の金田一シリーズを、
国家を揺るがすスキャンダルに翻弄する物書きの苦闘は、ポランスキーの『ゴーストライター』を彷彿とさせるため、暗澹たる惨劇の闇へと客を招く入口は、意外と幅広い。
しかし、グロテスクなタッチが先行し、明確な真相を提示せぬまま突き進むダークな血飛沫の羅列も健在なのも、フィンチャー節の困った愛嬌でして…。
サイコサスペンスとして、不親切極まりない牽引力こそ、市川崑やポランスキーとの明らかな違いで、個性なのだと断言できるが、痛快な謎解きを期待すると、肩透かしを喰らう展開かもしれない。
よって、ストーリーよりも主人公の男女のクールなキャラクターに魅力を感ずるのは、極めて必然的な成り行きであろう。
凄惨なる真実に支配され、他人との交わりを拒絶する最中に、激しく絡み合うベッドシーンは、今作で唯一、人間らしい熱を宿している。
スレンダー通り越して華奢なルーニー・マーラの裸体に反し、バストはツンツンと上向きのお椀型で、それなりに一級のクオリティを魅せつけるアンバランスな出で立ちが印象的。
片や、迎え撃つダニエル・クレイグも野性味溢れる男臭さがエネルギッシュにスパーク!
かつて、リングで暴れ放題だったブロディ&ハンセンの超獣タッグ以来の衝撃的コンビネーションが炸裂する。
あのモザイクだらけなツープラトン攻撃は、天下無敵である。
では最後に短歌を一首。
『血の破綻 震えを灯す 龍の指 悪夢に紡ぐ 花の在処よ』
by全竜