「リメイクでオリジナルに肩を並べる作品は初めて」ドラゴン・タトゥーの女 マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
リメイクでオリジナルに肩を並べる作品は初めて
コロンビア・ピクチャーズのマークが普段と違って、どんよりした色調で投影される。
オリジナル(2009年スウェーデン)のメインテーマは、コーラスを使った印象的な曲だった。それにどう対抗するのかと思っていたら、なんとレッド・ツェッペリンをカバーしたカレン・Oによる『移民の歌』。なまじオリジナルを使わず、既存の曲からインパクトのある楽曲を選択したのは、ある意味正解といえる。さらに色をつけたら「007」のタイトルバックにもなりそうな、黒が基調のビジュアルが素晴らしく、さながらミュージックビデオのようだ。これだけで、デヴィッド・フィンチャー監督の本気度が伝わってくる。
しかも舞台をアメリカに持って来なかったのがいい。事件の根底にあるものなど、「ミレニアム」シリーズを描く上でスウェーデンを出てしまったら別物になってしまう。
ミカエル役のダニエル・クレイグのシャープなマスクはオリジナルになかった魅力だ。オリジナルでは、ミカエルがノオミ・ラパス演じるリスベットに完全に食われていた。
そのリスベットこそが、今回のリメイク版の仕上がりを左右する重要なポイントだが、まずオリジナルを超えられないだろうという予測がいい意味で大はずれ。ルーニー・マーラの体当たりの演技はもちろんだが、そこはかとなく漂う清潔感と知性が、どんなにいたぶられるシーンでも汚く見えない。
逆をいえば、オリジナルが纏(まと)っていたどす黒い闇は薄れてしまった。この点は賛否両論あることだろう。このリメイク版は、カメラワークやカット割り、照明および音響に至るまで洗練されていて、品よくまとめられたという印象だ。
また、よく見知った俳優が多いため、複雑な人物相関が判りやすい。オリジナルより5分長いだけだが、事件の究明が丁寧に描かれ、推理の過程も解りやすくなった。
リスベットのスイスでの単独行動は、オリジナルでは結果だけだったが、その経過が詳細に語られる。ここは監督がルーニー・マーラの容姿を活かしたサービス・ショットといえる。その前の「殺していい?」の台詞もキマっていて、次作でのリスベットの活躍を楽しみにさせるあたり、心憎い演出だ。
ひょっとしたら次回のポスターでは、ルーニー・マーラが正面を向いて、ダニエル・クレイグが横を向いているかも知れない。
適度なスピード感を持ったストーリー展開と、分かりやすくまとめられた圧倒的な情報量、オリジナルに勝るとも劣らない俳優陣といい、リメイクでオリジナルに肩を並べる作品を初めて観た。