劇場公開日 2012年4月21日

ももへの手紙 : インタビュー

2012年4月18日更新
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優香、「ももへの手紙」声優挑戦で気づいた母の思い

“いつも笑顔”の癒しキャラで数多くのバラエティ番組に引っぱりだこ、さらに女優としても活躍する優香が、アニメ映画「ももへの手紙」で意外な役どころ──ヒロインももの母親(いく子)役に挑戦している。「見ているだけで別世界へ連れていってくれるアニメーションの世界は大好き!」という優香が、映画の魅力と母親を演じたことで感じた大切な思いを語る。(取材・文/新谷里映、写真/本城典子)

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「アニメでお母さん役というのは初めてだったんです。30歳を過ぎたし、そういう役を演じる年齢なのかなって思っていたんですが、パンフレットを見たら、いく子さんは39歳の設定! 意外と上だったんだなって(笑)。でも、いく子さんは年齢を感じさせないというか、すごく若々しいお母さん。明るくて、元気で、前向きなイメージをもってアフレコに臨みました」。“明るく、元気で、前向き”という三拍子そろったいく子のキャラクターは、そのまま優香のイメージとも重なるが、自らが思い描いてきた母親像、これまでに見てきた映画の中の母親像に圧倒的な存在感を抱いているからこそ「どう演じていいのか……」と戸惑いもあったと明かす。

「そもそもアニメーションで人間役を演じるのが初めてなんですよね(笑)。韓国のホラー映画『コックリさん』でヒロインの吹き替えをやったことはありますが、ほかは『アイスエイジ2』のマンモス(エリー)とか『ぼくの孫悟空』のサル(孫悟空)とか、人間以外のキャラクターが多かった。それに、自分が今まで見てきたアニメーションに出てくるお母さんは、“お母さんお母さん”しているというか。そういうお母さんを演じるのは、ぜったいに無理だー! と思っていたんです」

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沖浦啓之監督が求めていたのは、優香がもともと持っている雰囲気であり「そのままの自分で演じてほしい」という言葉が、優香といく子をシンクロさせた。「いく子さんの表情がとても素敵で、声をあてているのがすごく楽しかったんですよね」と満面の笑みで話す。また、「私はまだ独身で子どもを叱った経験もないし、兄弟も上にしかいなくて、どちらかというと叱られる立場だったので、叱るということ自体が初めて。お母さんってこういう気持ちで子どもを叱っていたのかな、叱るって愛情のいることなんだな、と気づかせてもらいました」

いく子の眼差しを通じてももを見つめることで、同じ年齢(11歳)だった頃の自分、当時の母への思いも述懐する。「ももといく子さんを見ていると、親子なんだけれど、どこか友だちのような、姉妹のようにも思えてくるんですよね。なんだかうちのお母さんと私みたいだなって思うシーンもたくさんありました。私にとって子どもの頃のお母さんは、完璧な女性。何でもできて、困ったことがあればどんなことでも助けてくれる、欠点がまったくないような存在でした。けれど、それは弱さを見せないようにしていただけなんだなって、この映画のいく子さんを見て思ったんです」。優香が気づいたように、今作を見た誰もが、自らをキャラクターに重ね合わせるだろう。優香も「自分を投影できるから、こういう成長物語って好きなんですよね」と言葉に力を込め、さらに「ももへの手紙」の奥深さを説明する。

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「台本をいただいて真っ先に目に入ってきたのは、あの妖怪たちの絵でした。最初は彼らをかわいいとは思えなくて(苦笑)。今はかわいいと思うし、特にマメの気の抜けたしゃべり方とか大好きですけどね(笑)。そんな妖怪の絵が描かれている映画って、どんな映画だろうって。読み進めていくとどんどん物語の世界に引き込まれていった。ももが新しい町に馴染めないでいる感じとかは、私も引っ越しの経験があるので共感できましたし、お母さんが(同級生の)男の人と話しているだけでやきもちをやいたりするシーンは思春期ならではの気持ちで、懐かしく感じたり。そして、物語の最後、ももがお母さんの気持ちに気づく場面は、もう涙が止まらなかったですね。子供には弱いところを見せたくないと頑張っているいく子さんの姿は、女性からみても格好いいし、こういう女性でありたいと憧れます」

優香の口から次々とこぼれる作品の魅力、キャラクターの魅力。それだけ心に響いた証でもあり、もちろんその背景には沖浦監督が7年の歳月をかけて、じっくりと丁寧に注いできた愛情と努力がある。「監督はぼそぼそっと話す、とても優しい方でした。アフレコの前に、この映画はももの話だけれどいく子さんの話でもあるとおっしゃっていて。ももへの思いも、いく子さんへの思いも、そして妖怪たちへの思いもある。すべてに愛情を注いでいる監督だなって感じたんです。あの画の細かさからも愛情を感じますよね。みかん畑の上から見渡す町の景色とか、本当に美しいんですよ」

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そんな美しさを含め、今作は「日本が世界に誇れるアニメ」であり、「見た人の背中をぽんと押してくれるような映画」であり、「全世界共通の感動が備わっている」と補足する。「すごく激しい出来事があるわけではないので、アクション映画みたいな刺激のほしい人には、もしかしたらもの足りないかもしれないですが、震災から1年──忘れてはならないことを改めて感じられる映画でもあります。自分と一番近い家族ほど、感謝の気持ちは伝えられないものですよね。つい甘えてしまったりして。ですから、この映画を見て、自分のこと、家族のこと、おじいちゃん、おばあちゃんはどういう人だったの? 両親はどういう恋をしたの? とか、身近な人と会話してもらえたらうれしい。もものお父さんのように、大切な人が見守ってくれている、傍にいてくれると思うことで、人は前に進めるものだと思うんです」

大切な人との別れは確かにつらい。だが、大切な人は自分がその人を思うことで身近に感じる。そんな気づきもまた「ももへの手紙」の素晴らしさだとほほ笑む。物語のキーとなる母・いく子役に沖浦監督が優香を指名した理由──それは、やはり温かくキラキラとした笑顔。「私、笑い上戸で、どうでもいいことでも笑える性格なんです(笑)。それに、ニコニコしている方が幸せはやってくると思うから」と確認するように語ったその笑顔は、スクリーンのなかで見たいく子の笑顔そのものだった。

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