「自覚のない蟻地獄の挽歌」生き残るための3つの取引 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
自覚のない蟻地獄の挽歌
常に正義をかざすべき警察が偽の証拠を仕立てる前代未聞の事態を嗅ぎ付け、検事、マスコミ、ヤクザetc.出世欲に群がる連中がお互いの弱味を握り、更なる蟻地獄を掘り起こす弱肉強食のフルコースは、焼肉のメッカ・韓国ならではのボリュームたっぷりの血肉の盛り合わせでお腹一杯の見応えだった。
「ホシがいないなら何やってもいい。とにかくアゲちまえ」
ムチャ振り極まりない命令の下、敵だけでなく強い絆を結んでいたハズの仲間内まで飛び火した裏切りの応酬に、心身ボロボロになりながらも捏造工作に奔走する刑事グループ班長の苦悩が哀愁を誘う。
浜田雅功&石倉三郎を足して、コチュジャンで割ったようなインパクトを放つヤクザの親分との丁々発止なやり取りは今作の醍醐味を濃厚にあつらえている。
災いの元凶やのに、必死に任務を遂行しようともがく彼の醜さは、我々同様、毎日毎日、板挟みを食らう中間管理社会の犠牲者とも云え、軽蔑よりも共感を覚えた。
ただ単に今の職場にウンザリしているだけなのかもしれないって切り捨てちまったら、それまでだが…。
汚職が蔓延る権力腐敗や学歴社会の歪み、内部告発、精神薄弱者の犯罪、検事買収etc.痛烈な社会派の複雑な切り口で刻みながらも、闇の闘争に明け暮れる男共の生き残りを賭けた処世術の生々しさに一貫しており、二転三転するテンポは最後までスピードを緩めない。
ただ、渦の構造を簡素化し、バイオレンス娯楽に徹した割には、約2時間は長過ぎるかな。
エグ過ぎて2、3口で箸を止めた『オールド・ボーイ』よりはマイルドで食べやすいけど、お代わりは遠慮したい味付けと云える。
第一、あんなに殺しまくってたらバレるのは、時間の問題やと思う。
そんなん誰でも怪しいって感づく失態に、リアリティの度量に疑問視したいトコロだが、御近所の中国じゃあ、事故った電車を国家主導で埋めてもうたんやから、あながちデタラメな隠蔽でも無いだろう。
タイムリーって怖いね。
こんなん批評ちゃうなとボヤキつつ、最後に短歌を一首
『過ちは 牙で潰せど 群れる渦 餌付いた欲に 染まる野良犬』
by全竜