劇場公開日 2011年9月10日

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「映画独自のススキノ・ハードボイルド」探偵はBARにいる 永賀だいす樹さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5映画独自のススキノ・ハードボイルド

2013年4月26日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

笑える

興奮

原作ファンからすると、とってもフクザツな感傷をもたらす映画。
<ススキノ探偵>シリーズの肝だと思ってた部分が軽んじられてしまう一方、そこですか?的要素が強化されているところが悩ましい。
映画として観た場合も、アクションとミステリと人間ドラマとコミカルを総動員しようとしたためなのか何なのか、展開がめまぐるしくて追いかけるのが大変な部分も。

一番ヘンだと感じたのは、
名無しの主人公<俺>が口にする「探偵は依頼人を守らなくちゃいけない」というセリフ。
確かに原作でも「依頼人は護らなくちゃいけないんでね」とは口にしている。ただ、それは原作が持っている"ハードボイルドをマジメに語るのは恥ずかしいジャン?"ってノリが下地にあるのであって、本格的なハードボイルドを目指しているのではない。

ところがyoutube予告編にあるように、映画本編ではいかにも正統派ハードボイルドですというスタイルを提示している。

キャスティングで<俺>に大泉洋を起用していることから、原作への配慮がゼロとはいわない。しかし違和感が否めないのも事実。
そもそも<俺>は業としての探偵を意識していない。たぶんに編集・出版的な事情で「探偵」を冠しているだけで、キャラクターとしての<俺>は"街の便利屋"を気取っているだけなのだ。
だから原作ファンの一人として、また映画ファンの一人として、文句言いたいような、映像化に感謝したいようなアンビバレントな気持ちに叩き込まれてしまう。

映画本編だけ観ていても、複数の事件が一つになっていく流れは駆け足に感じる。
しかし原作もだいたい似たようなもので、説明を入れない<俺>の行動が少しずつ大きな流れを作っていく。
ただ、小説では探偵の<俺>が早足にならないよう小ネタをはさむ一方、映画では小ネタも一緒に濁流飲み込む勢いでドッと押し寄せる。だから読者が受け取るウィットに富んだ作品世界と、観客が受け取る怒涛の映像迫力とは大きなギャップがある。

細かいことを言ってしまえば、<俺>の本拠地であるバー「ケラー・オオハタ」に初老のバーテンダーはいない。いつもは若い岡田というバーテンダーが<俺>の相手をする。
またモンデという喫茶店には、<俺>を挑発的に誘惑する女給も存在しない。
どちらも映画オリジナルだ。

オリジナルが悪いということはない。
映画の尺が小説全部を再現できるわけがないと分かっているから、都合よく登場人物を一人に統合したり、イベントをはしょったりカットしたりはよくある。
でも、原作の雰囲気とは別の路線で味付けするのは、よっぽど注意深くやらないとイメージが壊れてしまう。
それでも映画が成立しているならいいけれど、原作の持ち味と違った形で提示されたら名前だけ拝借したのかと考え込む。

しかし暴力描写に遠慮がなく、主人公がタフで飄々としていて、ヤクザや風俗の客引きなど、<ススキノ探偵>シリーズに込められた猥雑な札幌を映像化しきったことはスゴイことだと思う。
そこは原作ファンとしても認めるところ。甘っちょろいスカした作品に仕上げられたら、それはハードボイルドではない以上に<ススキノ探偵>じゃない。
原作のすごさは、ライトな間口で実はタフなハードボイルドを日本で生み出したことなんだから。

ただ、なまじ再現してくれた側面があるだけに批判しづらく、その点はやっぱりフクザツ。劇場公開中も表現しがたい感情を喚起していたけれど、今回で二度目の鑑賞も、やっぱり言葉にしづらい思いを抱かせた。

端的にいっちゃうと、原作はもっとおもしろいから映画を好きになった人はぜひ読んでくださいってこと。

では評価。

キャスティング:7(他に誰がいるっていえない点で、文句つけがたい)
ストーリー:5(原作をまるごと移植しようとし過ぎた感がある)
映像・演出:8(手加減なしの暴力描写と、逃げずに飄々とした印象の<俺>がうまく出ている)
ハードボイルド:7(なまじ<俺>が「探偵なんだよ!」と言い過ぎるきらいがあるが、それ以外はタフで信念曲げないところが魅力)
原作再現度:8(映画という尺に収めるには困難なことを考えれば、かなりの力技を使っているのは感じる)

というわけで総合評価は50点満点中35点。

映画を先に観れば悪くないと思ったのかもしれない。だから原作未読の人にオススメ。
そして映画を観た人には、原作小説を手に取ることを超オススメ。

永賀だいす樹