「ほのぼのと鬱に向かい合うアンバランスな夫婦噺」ツレがうつになりまして。 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
ほのぼのと鬱に向かい合うアンバランスな夫婦噺
鬱病に苦しむパートナーを支える夫婦噺やと、映画では、リリー・フランキー&木村多江の『ぐるりのこと』が、
漫画では、吾妻ひでをの『失踪日記』が傑作やと思う私は、今作の妙にほのぼのとした世界観に出足から戸惑ってしまう。
しかし、闘病生活の痛々しい現実と微笑ましいのんびりしたテンポとのシンクロが絶妙で、メリハリの効いた空気を『篤姫』以来の夫婦役となる宮崎あおい&堺雅人が愛嬌豊かに演じ、見応えがあった。
悲しいけど何か笑える。
笑えるけど妙に寂しい…
そんな鬱病に揺れ動く2人の心情が繊細に表現され、原作が持つ不思議な画のアンバランスさを再現している。
特に退職当日、満員電車で突然泣くじゃくるダンナに困る妻のやり取りは深刻さに反して思わず笑ってしまい、ユルさの重要性を実感した。
ペットのイグアナを筆頭に、妻の両親(余貴美子&大杉漣)etc.のトボケた存在感も陰を和らげる効果を発揮し、観る者が病気に対して受け入れやすい敷居の高さに調整してあるのが大きな魅力であると云えよう。
総合的には、予想より病状が軽いような印象を感じ、克服するまで闘病生活がスムーズに過ぎていったのは物足りなかった。
しかし、元来ズボラな怠け者なのに、介護福祉士という常日頃、神経を細かくして対応しなければならない職業を勤める私には2人の苦悩は他人ごとでは無い。
2人それぞれの不安や葛藤から生まれる名言にいちいち頷いている自分に気付く。
・休む時は休むのが宿題
・うつ病になった原因を考えるのではなく、うつ病になった意味を考える
・頑張んなきゃいけない時だからこそ、私は頑張らないet
c.etc.
仕事上いつ自分が患ってもおかしくない病気なので、良い心構えになったと思う。
それにしても、退職したダンナに代わり、生活費を稼がなきゃと仕事に励む宮崎あおいの健気さが妙にリアルで愛おしかった。
では最後に短歌を一首
『遠ざかる 振り子にハネを 寒椿 雨はツレヅレ 添い寝のスケッチ』
by全竜