「イメージ、叩き壊し」富江 アンリミテッド ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
イメージ、叩き壊し
「片腕マシンガール」などの作品で知られる井口昇監督が、荒井萌を主演に迎えて描く、ジャパニーズホラー界が誇るシリーズ最新作。
井口昇と、西村喜廣。ここにあげる映画監督と特殊造形監督こそ、日本映画界が今、最も注目すべき映画人であると私は考えている。何故だろう。それは、この二人が手を組んだとき、その作品は狂気を帯びた「壊し屋」としての性格を持つからである。
二人の作り手が共作した作品には「片腕マシンガール」「ロボゲイシャ」といった作品群がある。一見すれば、荒唐無稽なスプラッターコメディのような様相の作品だが、実はそう単純にはいかない。
「片腕~」が描く女子高生が持つ既成のイメージ(AK〇のような、アイドル)、「ロボ~」が描く芸者が持つ既成のイメージ(SAYURIのような、花町)を、鮮烈な残酷描写と極端なコメディ要素を混ぜ込み、徹底的に叩き壊す意図が、作品から滲み出す。結果として、女子高生と破壊、芸者とグロが化学反応を起こし、現代日本映画界の表現の幅を広げようとするのが、この奇抜な作品群の出現した意味だと考えるべきだろう。
その二人の作り手が次に選んだ題材こそ、日本映画界が誇るホラーの古参シリーズ「富江」だった。
邪心、憎悪、恐怖の代名詞のようなイメージが付きまといながら続編を量産してきた本シリーズ。その最新作と銘打たれながら、もう腹を抱えて笑うしかない壮絶、過激な暴力描写に彩られた本作には、これまでの「富江」にあった陰湿、かつ絶望的な空気よりも、むしろあっけらかんとした陽のエログロ世界としての色合いが強い。「富江=暗い」という既成のイメージをここでも力強く叩き壊し、新しい魅力へ一歩進める役割を担おうとする。
だからこそ、AKB48の人気メンバーの首をあんな羽目に陥らせることも平気でやる。とことん、壊す。壊す。そこから生まれる可能性を、強く信じた作り手の自信が成せる業が、本作の大きな見応えを生み出す。
流麗な物語展開を無視した、破壊衝動とインパクトへの欲望が溢れ出す独特の「壊し屋」世界。一度この味わいにはまれば、もう、抜け出せない。
井口昇、西村喜廣。何はともあれ、刺激、変化、衝撃といった言葉に弱い映画ファンの方々は、この二人の名前を是非、覚えておいていただきたい。彼等の作品は、いつも何かを「壊す」。そして「創る」はずだ。