劇場公開日 2011年3月5日

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「人の意識変革には時間と作戦も必要不可欠」アメイジング・グレイス Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0人の意識変革には時間と作戦も必要不可欠

2012年4月9日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

日本に於いても、とても多くの人に愛され歌い継がれている曲の1つである、「アメイジング・グレイス」
この歌が、中世ヨーロッパの奴隷船貿易の哀しい現実の中から生れ、その奴隷制と言う残酷な人身売買制度を人道的・宗教的な立場からみても、決してあってはならないと、この理不尽な制度を撤廃する事に尽力した、若い政治家のウィリアム・ウィルバーフォースの物語がこの映画「アメイジング・グレイス」だ。
この作品はとても大きな感動を私に与えてくれた。
16世紀から18世紀にかけて3世紀に渡りヨーロッパからは武器の輸出と西アフリカで奴隷売買し、西インド諸島を経由し、砂糖などをヨーロッパに持ち帰ると言う大西洋奴隷貿易と言う三角貿易が中世のヨーロッパの産業の中心で発展して来ていた。この奴隷制度の中で綿花の栽培がアメリカ南部の大きな産業となり、その産業の労働力をアフリカから売れれて来た人々の人力で支え、その綿花はイギリスの綿工業へと発展し、産業革命の基盤へと発展してゆくのだから、元々この中世に起こった、奴隷船貿易が行われていなければ、世界の経済産業の歴史も、今の経済や、産業分布も随分と違った姿をしていた事だろう。
だが、人類史の中では、戦争の無い時代は殆んど無いと言われるが、それと並行して、奴隷制度も、古代ギリシャやローマ時代も主に戦争の為の兵力として、奴隷は存在していたのだから、戦争と同様に奴隷制度の歴史も人類史と共に長いのが、この人間社会の裏側の歴史とも言えるだろう。英語のSLAVEと言う言葉の語源はスラブ人から由来していると言われ、中世バイキングはスラブ人、ムスリムはトルコ人を奴隷としていたが、アフリカ系の黒人の人達が奴隷として扱われるようになったのは、この大西洋奴隷船貿易からの事だろう。
この映画の政治家ウィリアムが生きていた時代は、英国のリヴァプールや今はフランスのワインで有名なボルドーから奴隷船に寄る産業の利益を上げていた多くの商人や特権階級の人々がいたのだから、ウィリアムが、この奴隷制度撤廃法案を可決させるには、どれ程の苦労と失敗や、挫折の末に、この法案を可決へと導いて行ったかその苦労を想像出来ると言うものだ。それを思うと、人が信念の為に、努力し続け、何事も決して諦める事無く生きる事の重要さが何よりも大切である事をこの映画は私に教えてくれた。
フェアートレードによる貿易が行われている社会なら、お互いに経済格差も縮小して、産業も共に発達し、そこに暮す人々も生活に困窮する事も減ってゆくだろうに・・・
ヨーロッパで18世紀に始まった、お茶の習慣が、ヨーロッパ菓子や、料理の世界を拡げ、その影響は、今なお私達の住む今日の日本の生活をも、豊かで楽しい文化的なものにしてくれているのだ。しかしその一方で、人間の歴史に於いては、表の歴史の裏に隠れて、負の歴史とでも言うべき、歴史を併せ持っていると言う現実を知る事はとても大切な事だと私は考える。その事で、人は物が生れる、出来るまでにも、総ての物にも、それぞれの物語が存在し、ドラマがある事を知り、総ての物や事柄を何も疎かにする事が出来ない現実を知ると思う。それが日々の生活の感謝へと繋がって行くと私はこの映画を通じて知った
オクタビア・スペンサーが「ヘルプ」で2012年のアカデミー助演女優賞を受賞したので、この映画も早く観てみたいのだが、「アメイジング・グレイス」を観て、大西洋奴隷貿易がどんな歴史を生んで来たのかを参考にして観てみると、より「ヘルプ」の描く世界がリアルに見えて来る気がするのだが、あなたはどう感じるだろうか?

ryuu topiann