「16年、炎は燃え続けられるか」戦火のナージャ ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
16年、炎は燃え続けられるか
ロシア版「十二人の怒れる男」などの作品で知られるニキータ・ミハルコフ監督が、自身が主演を勤めて描く一大戦争絵巻。
16年である。言葉にしてみればたった3文字に収まってしまうが、実に壮大な時間の流れがある。夏のオリンピックに4回も熱狂することが可能である、映画ドラえもんの新作を16回も涙しながら観賞する事が許される。気が遠くなる程に時計の長針と短針は追いかけっこを続けているのだ。いや、誰も自らの16年後を明確に説明できないのも、頷けるばかりである。
その悠久の調べを、一本の映画作品の続編作りに費やした酔狂な人間こそ、本作の作り手である。前作「太陽に灼かれて」は、世界的に高い評価を受けた名作であるが、その続編と銘打った作品が今回の物語だ。
ここまで時間を掛けると、続編とは名ばかりの独立した作品として提示されるのが一般的だが、見事に前作の流れを受け継いでいる。
第二次世界大戦下、政治の流れの中で離ればなれになった父と、娘。父を政治犯として逮捕した一人の将校。この3人が巡る道中を軸に展開される物語。当然、戦争映画の名作「プライベート・ライアン」に触発されたという作り手の言葉通り、戦場の惨劇を生々しく描き切る画力の強さが際立つ印象だが、それ以上に観客の心に刻まれるのは、戦いの中で臭く、熱く、ちょっと馬鹿馬鹿しく生きる人間の面白さだろう。
真剣な戦争ドラマのはずだが、どこか観客を微笑ませる温かさと皮肉が織り交ぜられた作品への姿勢は、観客が飽きる事無く物語に向き合えるようにとの心遣い、謙虚さが生んだものだ。
敢えて語らず、雑多な道具や要素を手を変え品を変え活用し、痛みや最期を軽快に連想されるユーモアの力もそつなく輝き、映画作りの原点と、手法を教えてくれる。
CG全盛のご時勢にあって、炎に霧、爆破まで本物に拘る豪華印。ブルー・スクリーンの前で「死ぬな!生きろ!」と涙を流すのとは比較にならない痛みと情熱が画面一杯に溢れ出す。なるほど、ここまで資金を湯水の如く使い込むには、16年の年月が必要だったのだろう。よくぞ、粘り切りましたと拍手を送りたい。
同じCGチームが作った作品が同時期に公開され、「ねえ、似てない?」と観客の苦笑を誘っているあの国や、安直な子役ブームに流され、子供に必死に叫ばせ、泣かせる事に全力を尽くす某国の映画人に警告する。こんな、執念の塊のような熱い、熱い作品が現れてしまっています。このままで、良いですか?
本気で、暑苦しく、映画、作ってますか?