劇場公開日 2011年10月29日

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「真実を見極める難しさを痛感」フェア・ゲーム マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5真実を見極める難しさを痛感

2012年4月15日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

怖い

難しい

表の顔と裏の顔、ふたつの顔を持つ女、ヴァレリー・プレイム。身を隠さなければならない犯罪者ではない。人から慕われたり敬われることもあるが嫌われることもある警察官でもない。国家の機密情報に触れ、他国の情報の収集や操作を行うCIAの職員だ。しかも多くのミッションを抱える高い資質を持ったエージェントだ。国を守るために、敢えて二つの顔を持つ人生を選んだ。そんな彼女と家族を陥れた陰謀を、事実をもとに描いた作品だ。

9・11同時多発テロ以降、アメリカは国家の威信を懸けてテロに対する報復攻撃を仕掛けてきた。それは同時に、政権に対する国民の支持を高める政略でもあった。フセインが独裁するイラクをテロ国家として葬り去ることは、時の政権にとって内外へ実力を見せつけるまたとない機会だった。
この政治的な実権を得が為に、誤った行動を取ることになる。

イラク攻撃の大義名分をイラクによる大量破壊兵器の保持にしつらえ、これを事実と思い込ませることで、攻撃に対する世論の支持を取り付ける。
ところがCIAの女性エージェント、ヴァレリーの潜入捜査では兵器の存在を裏付けるものは何も見つからなかった。
ヴァレリーの夫で元ニジェール大使のジョセフによる調査でも、濃縮ウラン売買に関する事実が認められなかった。
政権にとって、今この情報が世に洩れることは、せっかく喧伝してきた大義名分が揺らぐことになる。
間違った戦争を阻止すべく動けば動くほど、世の権力者にとっては、まさに目の上のたんこぶとなったのだ。
遂に権力に溺れた人間は、絶対にしてはならないことに手を染める。あろうことか、ヴァレリーの身元をメディアにリークしてしまう。CIAの工作員であることがバレてしまったヴァレリーは丸裸同然で世間の目に晒される。それこそ権力者たちの思うツボで、誰も真実に耳を貸さなくなってしまう。
けれども彼女が時間を掛けて仕込んできた幾つものミッションが頓挫することにもなる。この国家的損失も顧みずに戦争行為に走る権力者たちの真の目的とはいったい何だったのか。私利私欲のために多くの人が戦争の犠牲になっていく。

実際のニュース映像を取り混ぜながら、ねじ伏せられた正義が明るみになる。
また、メディアを利用した情報操作と、それによって一点しか見ることができなくなってしまうメディア自身と民衆の脆さも垣間見た。

それにしても、このような命を掛けて国家を守る組織の上に立つ米大統領と、何の手立てもなく外交する我が国の首相では、同じ一国の長といっても肩を並べられるような器ではないのだと、つくづく思う。

マスター@だんだん