「事実を述べる勇気に感服」フェア・ゲーム DOGLOVER AKIKOさんの映画レビュー(感想・評価)
事実を述べる勇気に感服
映画「フェア ゲーム」。分類からいうと、バイオグラフィーということになっている。誰の伝記かというと、まだ若い 実在のCIA秘密工作員ヴァレリー プラムのことだ。
監督:ドング リーマン(DOUG LIMAN)
キャスト
ヴァレリー プラム:ナオミ ワッツ
夫 ジョー :ショーン ペン
お話は
ヴァレリー プラムは優秀な成績で大学を出ると 自らの愛国心からCIAに志願して局員となる。2001年当時は 彼女は中堅の捜査官だった。
もと外交官の夫 ジョーとの間に双子の子供を抱え 多忙ながら幸せな家庭生活をワシントンで営んでいた。
ジョージ Wブッシュ政権下、米国イラク間の関係が険悪になるのつれ、イラク担当の彼女の仕事も多忙になる。
2001年当時 サダム フセインはウラン濃縮作業をしているという情報が信じられていた。元はと言えば、対イラク対策として、米国の援助によって推進された原子力開発だった。黙して サダム フセインに原子力大量破壊兵器を作らせるわけにはいかない。イラクの原油に狙いを定めていた米国にとって イラクを米国に敵対する軍事大国にすることだけは許すことができなかった。
CIAは イラク担当の秘密情報員ヴァレリープラムの夫を 以前彼が外交官として赴任していたナイジェリアに送り イラクがウラン濃縮作業を兵器開発のために 行っているかどうか偵察するように依頼する。チームも 各国に情報員を送り 事実確認を急いでいた。妻のヴァレリーは エジプトのカイロ、マレーシアのクアラルンプール、イラク各地に 情報提供者を送り込み 情報を収集していた。
結果はNO。サダム フセインのイラクは 原子力開発も化学兵器も作る予算も持っていなかった。フセインは いちど取り掛かった原子力開発を IAEAの勧告に従っていっさい放棄していた。ヴァレリーのCIAチームは イラクは原子力大量破壊兵器をもっていないと結論して ワシントンに報告した。
しかしその結論が出た日、ジョージ Wブッシュは、「サダム フセインが大量化学兵器を持っていて世界の安全を脅かしている」 という理由のもとに、バグダッド空爆を始めた。そこには副大統領が死の商人兵器会社と密接に利害関係にあったことや、当時下降していた大統領支持率を 開戦によって一挙に上げなければならないブッシュ政権の思惑があった。
開戦のニュースに肩を落として帰宅する妻を見て、夫ジョーは サダム フセインが大量化学兵器を持っている根拠はない という意見を新聞の投稿する。これを見た副大統領は ジョーの発言を潰す為に お抱えのワシントンポストの記者に、ジョーとジョーの妻ヴァレリーを実名で攻撃する記事を書かせる。
そのために CIAの秘密捜査官であることを 新聞で暴露されてしまったヴァレリーに もはや仕事を続けることはできない。ヴァレリーは CIAの仲間達とコンタクトをとることもできなくなり完全に孤立する。開戦による報道管制のいけにえにされたのだ。マスコミは ヴァレリーを3流のCIAのごろつきで サダムが大量化学兵器をもっていない などという夢を見ている反愛国者だと決め付けた。彼女が 仕事で情報収集のために カイロやカラチやバグダッドに送り込んでいた情報員たちも 米国のバックアップを失って命を失うことになる。身の危険にさらされるヴァレリー。死の恫喝の嵐、、、。
ジョージ ブッシュへの抵抗をやめようとしない夫との関係も ぎくしゃくしてくる。身の置き場のなくなったヴァレリーは 二人の子供を連れて実家にもどる。そして ホワイトハウスの公聴会に出頭して 自分のやってきたこと 自分の信念を 嘘偽りなく述べる。しかし、彼女を待っていたのは 2年半に渡る懲役刑だった。
という事実に基ついたお話。
根拠のない情報は情報としての価値はない。正確な情報をもとに事実を把握して現状分析する。これは政治政策にとって なくてはならないものだ。事実確認なくして 大量化学兵器をもつフセイン政権を倒す という理由で開戦に踏み切って たくさんのイラク市民を犠牲にしたジョージ ブッシュは戦犯として国際法で裁くべきだ。直接 兵器の売買、死の商人として戦争の利権に関わっていた当時の閣僚達も同様だ。
たったひとりになっても 事実を事実だと言い続ける勇気。自分の仕事と自分の信念に誇りを持ち続ける勇気。
映画の最後に 実際のヴァレリーが、ホワイトハウス公聴会で証言する様子のフィルムが回る。冷静沈着に証言を述べる彼女の姿に 心がふるえる。
実際にあったことを 数年後に映画化する監督の 迅速な撮影と編集作業にも驚かされる。
イラク戦争は過去の話でなく 今 血が流れている現在進行形のできごとだ。いまだイラク戦争で米国兵は撤退できず、バグダッドでは自爆テロが毎日のように起こり、シーア派アラブ人、スンニ派アラブ人 クルド人とが争い合っている。米国のパペット人形 ハミル カザイは自分の利益を肥やすことしか考えていない。
すこしでもイラク戦争の事実を知ること。これが一番大切なことだ。
とても良い映画だ。