「ルーシーゴードンの自死を悼む」ゲンスブールと女たち DOGLOVER AKIKOさんの映画レビュー(感想・評価)
ルーシーゴードンの自死を悼む
映画 「ゲインズブール」を観た。1960年代にシンガーソングライターとして、俳優として一世を風靡した フランス人セルジュ ゲインズブールの一生を描いた作品。
生涯 反逆児であり続け、酒と女に溺れるデカダン生活を送り、有名女性を次々とよろめかせ、死ぬまで世の流れに抵抗し続けた男。外見的に観れば こんなワシ鼻の醜い小男が どうして世界中にゲインズブール熱を撒き散らし 人々を夢中にさせたのか わからない。時代が より激しい捨て身の反逆者を必要としていた としか 解釈できない。
ストーリは
ゲインズブールは1940年代 ナチ占領下のパリで幼年期を過ごす。古典音楽のピアニストだった父親から、厳しくピアノを教育される。しかし、体罰が当たり前の厳しい教育や 学校生活や、差し迫るドイツ軍からの迫害など 彼は意に介さない。時代状況など全くかけ離れたところに、彼は自由な自分だけの世界を持っていた。達者な筆使いで女達の裸体画や、セックス描写を描き自分でストーリーを作って楽しんでいた。女以外に関心が向かない、早熟な少年は 夜の女達から人気があった。
やがて、大人になってキャベレーでピアニスト兼 歌手として働き始める。自由自在に作曲して それに詩をのせて自分で歌う。自由で奔放な即興曲に、次々とファンが増えていく。
地下鉄の切符切りを歌った「リラの門の切符切り」でデビュー、フランス ギャルの「夢見るシャンソン人形」で、ユーロビジョンコンテストで優勝し、いちはやく世界に名が売れて、時の人になる。妻帯者でありながら、ジュリアット グレコなど有名な女性と 次々に浮名を流す。
60年代のセックスシンボル ブリジット バルドーと恋愛関係に陥り バルドーのために沢山の曲を作る。超有名な「ジュテム モア ノンブリュ」も、そのうちの一つだが、当時バルドーは ドイツ人のビジネスマン ギュンター ザックスと結婚していたため この曲が発表されなかった。 後に ゲインズブールが40歳で、20歳のイギリス人 ジェーン パーキンと結婚したとき、二人でこの曲が デュエットで歌ってレコード化され、発表された。ベッドのなかで、あえぎながら 男女が歌っているとしか思えない曲も、いまなら皆 普通に聞いているが、当時は レコード会社も歌手も 逮捕覚悟で吹き込んだのだった。
ジェーン バーキンとの間に シャルロット ゲインズブールを始め3人の子供に恵まれるが その後ゲインズブールは 心臓発作を繰り返しても 深酒とチェーンスモーキングを 止めようとはしなかった。
レイゲに凝って、ジャマイカでフランス国歌「ラ マユセーズ」をレイゲ調に編曲して発表するが、これが愛国者の反感をかい、つるし上げられ、右翼に何度も襲撃され 自暴自堕落になっていく。「ラ マユセーズ」の著作権を自ら破産するために、買ったりもした。19歳の中国人モデルと結婚して男の子の父親になったりする。
死ぬまで酒と女を愛し、社会からも、家庭からも自由で、自堕落な男だった。残した曲が数え知れない。
というお話。
彼の作った曲の歌詞は そのまま歌えば何と言うことはないが、二重の意味を持っていて、そのほとんどが猥歌とも言える。ダブルミーニングのおかしさを それを作った本人が一番おもしろがっていた。何も知らずに 歌って有名になった 当時18歳のフランス ギャルなど、あとで自分が歌っていたことばの別の意味を知らされて、うつ状態に陥った事実もある。
この映画のなかで 一番輝いているのはバルドーだ。バルドーが初めて ゲインズブールのアパートに押しかけて、一晩過ごした時に、私のために曲を作って と言われてゲインズブールは眠らず 夜の間に3曲の曲を作った。夜明けに、その曲に合わせてバルドーが 裸ではしゃいで踊るシーンが、どこから観ても本物のバルドーのようで、とても魅惑的だ。役者のラエテイータ カスタは、38歳のファッションモデルだそうだが、バルドーを演じるに当たって 現在76歳のバルドーに会って、彼女の承諾を得たという。この女優、バルドーのそっくりさんで成功したので、これから人気が出るだろう。ヨーロッパの映画ニュースで、今一番セクシーな女優 という名誉な名前がついていた。
ゲインズブールとジェーン バーキンのカップルは 70年代の超過激な曲を逮捕覚悟で発表したり、国歌を猥歌にしたり、トレードマークのミニスカートで街を闊歩し、前衛的な存在だった。二人で出演した映画の数々は 過激なセックスシーンばかりだ。それを やせっぽちで中性的なジェーン バーキンがやると 全くいやらしくない。膝上20センチのスカートも、背の低い人がやると小学生になってしまうし、体育系体系に人がやると ただのピンポン選手になってしまう。 バーキンのミニスカート姿の小粋な美しさは他の誰にも真似ができない。
映画でゲインズブールも グレコもバルドーも本物そっくりで真実味があり、とてもよかったので、肝心のジェーン バーキン役の女優が 全く似てなくて、いま60歳代の本人のほうがいまだに魅力的なのは、とても残念。この、ルーシー ゴードンと言う人、いくつかの映画のチョィ役に出ていて、「スパイダーマン3」では、ニュースキャスター役で出ていた。ゲインズブールのジェーン役が この人にとって初めての主役級の役だったのに、ジェーンとは雰囲気も顔もスタイルも似ても似つかない。彼女が悪いのではなくて、適役ではなかった ことが残念だ。
この役者ルーシー ゴードンは、28歳、イギリス人。この映画を撮り終わった後、映画のリリースを待たずに、パリのアパートで首を吊って自殺した。
もしも、女優として大成できない と悟って逝ってしまったのだったら、とても哀しいことだ。