ロック わんこの島 : インタビュー
そう言って照れ笑いを見せるところは、以前とあまり変わっていない印象だ。犬とのシーンでいえば、居眠り中に子犬におしっこをかけられ、気がづいたときに文字では表現できないような叫び声を上げるところは思わず吹き出してしまった。
「あれ地声なんですけれど、何か(エフェクトが)かかっていますよね。ビックリしてこれでいいんだろうかと思い、もう超恥ずかしくなって、あの瞬間は試写室の椅子に体を埋めていました」
ともあれ、底抜けの明るさをはじめ自身の母親にソックリだったという貴子役には、かなりの手応えを感じている様子。だが、そういう思いに至るまでには、初めて組んだ中江監督との数々の“攻防”があったようだ。「すごく怖い。なかなかOKを出さない」といった事前情報を仕入れ、不安な部分に関しては「大丈夫、できるまでやるから」と頼もしい言葉をもらっていた。
象徴的なのが、ひと足早く本土に避難する芯との別れのシーン。離れ離れになるのがいやで泣きじゃくる芯を父ちゃんが必至で諭すが、貴子は少し離れたところで見ている。そして、悲しみが最高潮に達し芯に向かって走り出していくという前半のクライマックスだ。
「芯のところに行きたいという感情が盛り上がらなければ来なくていいと言われていたんです。フィルムが延々回っている中、芯が『いやだ。行きたくない』とセリフを言っていて、私はまだ行けない感情だけれど、そろそろ行かないとまずいかなあと思って行ったことがあったんですよ。そうしたら監督が『ふ~ん、そんなんで来ちゃうんだ』って。クソ~ッと思って、そこからは絶対にその気持ちになるまで動かないって思いました。そういう経験が1度もなかったので、私の中では勝手に監督とのちょっとした戦いになっていましたね」
監督に試されていることを意気に感じ、その状況を「楽しかった」と振り返る。中江監督との仕事も、大きな糧となったようだ。
「すごくこだわりのある監督で、俳優の一番いいところを狙って撮ってくれるという印象を受けました。やっていてとても面白かったし、やりがいもあった。久々にこの仕事をしていて良かったなあと思える現場でした」
それだけに、クランクアップ時は寂しさを隠せなかった。“家族”、特に土師野との別れは映画のシーン同様、つらいものだった。
「土師野くんのことが大好きになっちゃって、もうウチの子にならないかなと思うくらい。恋した感じだったんです。いると必ず目で追っちゃうし、常に触れたいみたいな。隆太くんとも仲良くなれたし、(義母役の)倍賞美津子さんには人に言えない悩みまで相談できちゃったり。本当にいい関係だったので、皆と離れるのは寂しかったですね」
母親、演出などさまざまな初体験をした「ロック わんこの島」は、完成してさらにもうひとつの初めてが加わった。初のファミリー・ムービーへの出演となったことだ。
「今までは変わった役の映画ばかりが多かったから、自分の家族や子どもがいる友だち、そういう人たちに見てって素直に言える映画があまりなかった。なので、そういう映画に出られたことはうれしいです」
確かに、「インスタント沼」での人生下り坂のヒロイン・沈丁花ハナメや、ドラマでは「時効警察」シリーズでの三日月しずかといった、自由奔放な役どころで強烈なインパクトを残している。「キャハハハハハハ」と開けっ広げに笑う本人と、どこか共通する部分も多く、今回の貴子もその系譜に入るかもしれない。
いずれにしても麻生は「カンゾー先生」以来、映画の第一線を走り続けてきた。それは今村監督に言われた「映画に出る女優さんになってほしい」という教えが、常に念頭にあるからだ。
「映画は私にとって特別すぎるんです。『カンゾー先生』から映画にこだわって仕事をしてきたから、映画が私の居場所みたいに思えている。映画の魅力? 細かく言えばいろいろありますけれど、映画に育ててもらったという思いが強すぎて、長い時間かけて映画への思いが積み重なっている感じですね。でも、やればやるほどダメだなと思えてきます。その分、欲もどんどん出てきているし、もうちょっと上にいけたらと思う。満足したら、私は(女優を)辞めてしまうと思いますよ」
かつては、「アイドル歌手になるのが夢」と話していたこともあった。今からでも遅くはない。アイドル歌手の役に挑戦してみればと振ってみると、「まだいけますかねえ」と冗談交じりながら満更でもなさそうな笑顔。そんなどん欲でまっすぐなところも麻生の魅力である。