「ちょっと怖くて、可愛い世界」台北の朝、僕は恋をする ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
ちょっと怖くて、可愛い世界
アーヴィン・チェン監督が、台湾映画界気鋭の若手ジャック・ヤオ、アンバー・クォを主演に迎えて描く、ラブストーリー。
先日、偶然にも台北の夜を撮影した写真を拝見する機会に恵まれた。原色に彩られた、妖しくもどこか温かい雰囲気、ヘンテコな怪物が高笑いして住民をからかってきそうな異次元空間。一目写真を見ただけで、その少しだけ怖くて、最高に可愛らしい町並みに思わずわくわくしたのを覚えている。
そんな風景から滲み出る予感そのままに、本作は序盤から観客の心を引き込む魅力を存分に発揮してくれる。恋人が遠くに旅立ち、その後を追うことばかり考える一人の男性と、彼を密かに気にする女性。二人が偶然、台北の街で出会う事から始まる、とある一夜の小さな、小さなサスペンス。
台湾映画界が作り上げるラブコメディには、必ずといって良いほど騒がしい、アクの強いキャラクターが多数乱れ打ち、ざわざわと恋愛模様をかき回す。その空気の読めない(読もうとも思っていない)暴走に若干、気後れする観客も多い。
しかし、本作はその強烈な個性は適度に抑えられ、どこか憎めない、力が気持ち良く抜けた警察官やら悪のりチンピラさん、主人公の悪友なんかが台北の街を疾走、迷走、面白そう。可愛い世界観を壊す事無く、一組の男女の物語を無理なく、無駄なく支えている。
破天荒に主人公の男性を引っ張っていく女性を演じるアンバー・クォの柔らかい微笑みと、観客を虜にする格好良い芯の強さに心躍らせつつ、何か楽しい、素敵な事が起きそうな街の喧騒に導かれて、常に笑顔、笑顔。誰もが幸せな気分に浸れること請け合いの、爽快な明るさが嬉しい絶品の恋愛物語に仕上がった。
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