トスカーナの贋作のレビュー・感想・評価
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疑似夫婦の贋作を見抜けるか?
キアロスタミが母国イランを離れ、外国語で撮った長編第1作。スマートな大人の男女が、オシャレな街で繰り広げるスタイリッシュなラブ・ロマンス・・・と思っていた、観るまでは・・・。陽光ふりそそぐトスカーナのロマンティックな街並みは、おおよそキアロスタミらしくないなぁ・・・と思いつつ、のほほんと観ていると、キアロスタミの仕掛ける罠にまんまと嵌ってしまう。これは間違いなくキアロスタミ作品だ(笑)。
贋作についての新作を発表したイギリス人作家(映画初出演のオペラ歌手シメル。見た目もスマートだが、声が魅力的)が、講演先のトスカーナで知り合った地元でギャラリーを経営するフランス人女性と知り合う。ドライブに出かけた2人が、カフェの女主人から夫婦に間違われたため、そのまま疑似夫婦を装うことになる。知的な2人の会話は、芸術や贋作のことから夫婦間にあるべき愛情のことへと発展していく。長年連れ添った夫婦間の不満などが、互いの口からほとばしり、この2人が本物の夫婦に思えてくる。果たしてそうなのか?虚実(本物と贋作)が入り混じる中、おそらく2人が交わしている会話の”中身=感情”は本物なのだろう。女は感情的に行動し、男は冷静でいながらもついつい女のペースに巻き込まれてしまう。女は男のために装ったりなどして魅惑的だ。男は女の態度に苛立ちつつも時に優しくいたわる。
贋作は見るものの感情により左右されると説く作家。真実も然り。女は妹の吃音の夫の話をする。「何が真実なの?」と問う女に、彼女の妹の夫が妻を呼ぶ言葉「マ、マ、マリー・・・」が真実だと男は答える。偽装夫婦のタイムリミットが近づく夕暮れ。新婚旅行の思い出の場所と称するホテルの一室で女は男に言う「行かないで、ここにいて。ジェ、ジェ、ジェームズ・・・」と・・・。
2人が本物の夫婦であれ、贋物の夫婦であれ、彼女の言葉こそが「真実」なのか・・・?戸惑う男の背後の窓から、タイムリミットを知らせる鐘の音が鳴り響く・・・。
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