「とりあえず今年の暫定ベスト1、デスね。」僕達急行 A列車で行こう 梅薫庵さんの映画レビュー(感想・評価)
とりあえず今年の暫定ベスト1、デスね。
森田監督の作品は「家族ゲーム」しか観ていない。しかも観たのは、劇場で公開された当時。そして今、監督の遺作を観たというのは、とても不思議な感じがする。
鉄ネタ、鉄ヲタ満載の話だけど、それだけに終わらないユーモア感覚が、スクリーンから溢れ出てくる。場当たり的で人を無理やり笑わせるような、今風のギャグ・コメディではなく、ジワジワと染み込んでくる笑いのヴァイブレーションが、とてもいい。
その根本には、落語に通じる、なんともいえない、ギャグセンスがある。「の・ようなもの」で、売れない二つ目噺家の青春を描いたから、当然のこと。
圭と健太のふたりのコンビのキャラは、タイプは全く違うものの「八つぁん熊さん」のパターン。ボケとツッコミがふたりの間で場面ごとに変わるので、観ていてちっとも飽きが来ない。その上、この二人には「ボーイズラブ」という、スパイスがちょこっと効かせてあるので、可笑しさにひとひねりある。「の・ようなもの」で秋吉久美子が演じたソープ嬢、エリザベスもそうだったけれど、森田監督のこういったタイプの人たちへの目線は、コミカルだけれど非常に優しい。
脇で登場する「のぞみ地所」や「小玉製作所」の人たちも、基本的には落語に出てくる、「長屋の人々」であり、悪い気持ちを持った人たちでないところが、またいい。
台詞や編集を通じて出来上がった、と思われる映画的リズムが、とても落語的なので、もしかしたら観る人を選ぶかもしてない。そうなって、この作品にネガティブな評価が与えられたら、とても悲しいことだけれど、ある意味、ご自身の行く末を知っていたかどうか、今からは知る術もないけれど、森田監督の映画の原点に戻ってきた、と考えるなら、それはそれで、悦ばしいことではないか、と思う。
3月24日 丸の内東映