「無慈悲な数字を、思う」戦火の中へ ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
無慈悲な数字を、思う
「私の頭の中の消しゴム」で知られるイ・ジェハン監督が、韓国トップアイドルグループBIGBANGのT.O.P、クォン・サンウを迎えて描く、史実の基づいた戦争ドラマ。
「数字で語られる命に、慣れてはいけない」ある記者が、某震災の記事を論じる際に語っていた。死者が1万人。この6文字には、その裏で呆然と立ち尽くし、泣き叫び、大切な誰かの喪失を思う何倍もの人間がいるという事実が、見えてこない。無感情な数字に、慣れるな。常に、一人の人間の悲痛な心を思え、と。
本作を観ると、その一言が鋭く、重く、私の心に突き刺さる。この物語が迫ろうとしているのは、71人という数字で語られた少年兵の勇姿ではない。個々の少年達が極限の恐怖、絶望の中で見つけた「自我」と「輝き」だ。
壮絶な戦闘シーンに対して、残された数日間に描かれる少年兵たちの笑顔と葛藤を、より濃密に見つめていく視点が印象的である。韓国の軍記ものには必須ともいえる「どれだけリアルに、どれだけ激しく祖国愛を描くか」という爆発的なエネルギーはそのままに、2人の少年と、北の親玉との決戦という軸を持ち込んだ人間ドラマ重視の構成に、新鮮な意欲を感じさせる。
71人の心、素顔を全て描き切ることは当然無理だ。むしろ、物語が散漫になる危険性をはらむ。ベテランの監督はそのリスクを重々理解し、数人の少年兵の個性を際立たせて、無駄のない展開に仕上げている。この職人芸をもって、無慈悲な数字の裏側を思い、覗き込み、表面からは見えにくい悲哀を掬い上げることに成功している。
単なるアイドル映画の枠を超え、誠実に1人の人間の涙と希望、生きる意味を問いただす重厚な作品となった本作。物語に目を逸らさずに向き合い、どこかの街で数字となって命果てた誰かを静かに思うのも、悪くない。