「クラシックだからこそ、武士の残酷な運命が美しく際立つ」小川の辺 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
クラシックだからこそ、武士の残酷な運命が美しく際立つ
藤沢周平原作の映画ってぇっと、『隠し剣鬼の爪』や『必死剣鳥刺し』etc.エキセントリックで血生臭い決戦が印象強いが、今作は、お互いの幼少期から綴る人生模様や、情と命令の狭間に揺れ動く心理状態etc.を静かに取り入れ、一騎打ちをマッチメイクしているため、作品のおとなしさに戸惑いを隠せないのが見終わった後の本音である。
しかし、勇壮な自然美と幼少期の淡き思い出を巧みに織り交ぜながら、淡々と盛り上げていく様式美に、従来型とは違う武士道の残酷さが克明に浮かび上がり、感覚深かった。
ストーリーの鍵を握る使用人の勝地涼や女房の菊地凛子の存在感に違和感を覚えたのは残念でならないが、多くは語らず任務を全うする東山紀之のストイックな姿勢は、観る者を魅力する。
菊地凛子の生々しい背中が未だに記憶を焼き尽くす。
大臣が知事の応接室に先に入るか、入らないかでスッタモンダしていた今の日本社会が余計にバカバカしく感じてならなかった。
では、最後に短歌を一首。
『剣握る 運命に憂ふ 武士の道 覚悟を秘めて せせらぎに断つ(立つ)』
by全竜
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