「意外とハンセン病がテーマの作品。財津一郎がコメディアンの持ち味を封印して、頑固さと哀愁を漂わさせる演技が絶品でした。」ふたたび swing me again 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
意外とハンセン病がテーマの作品。財津一郎がコメディアンの持ち味を封印して、頑固さと哀愁を漂わさせる演技が絶品でした。
てっきりジャズ映画と思いきや、テーマの半分は、「らい病」患者とその家族に対する差別を告発する作品でした。「らい病」は、現在ハンセン病と呼ばれ、発病すると強制的に療養所に収容されて、隔離されてしまったのです。「らい予防法」は1996年まで続いたこの反人権的な法律により、主人公の貴島健三郎は50年の歳月を療養所で過ごさねばならなかったのです。
健三郎は、強制収容となって愛する妻や生まれてくるわが子とも対面できず、孤独に過ごしてきたのです。また出演するはずだった憧れのライブハウスでの演奏も叶わず、療養所のある島で、プロのジャズメンとなる見果てぬ夢を抱きながら、愛用のトランペットを演奏する日々を過ごしていました。
冒頭の夕日のトランペッターのシーンは、そんな健三郎の哀愁を滲ませて、作品の世界に引き込まれました。
みなさまには、人生でやり残したことないでしょうか?人は誰しも、長い人生の中でやり残したことを思い出すことがあるものです。何年かけても、どれだけ苦労しても、どうしてもそれをやらずには人生を終えられないと思うことが、お持ちでしょうか?本作は、そんな信念を滲ませた男の物語でした。その背景に、国策で強制的に隔離されてしまった無念さと余命が迫っている切なさがあるため、健三郎の抱く思いに凄く共感してしまいました。単なる懐古趣味ではなかったのです。
50年の時間の重みをたっぷりと感じさせる演出と全編流れるジャズの名曲により、潰えていた夢を再び成し遂げる感動を描き、涙を禁じ得ないラストとなりました。ジャズファンだけでなく、ヒューマンなストーリーがお好きな方にぜひお勧めしたいと思います。健三郎の生き様は、「いくつになってもやり残したことにチャレンジしよう」と前向きなメッセージとして、背中を強く押してくれることでしょう。
健三郎は78歳。孫と共に思うように動かなくなった手に杖を握らせ旅する姿は、どこか『春との旅』を彷彿させられます。永年の隔離生活で、孫とは出会ってすぐに旅に出るストーリーは、『春との旅』と同様になかなか珍道中となりました。頑固で偏屈さで、おまけに無言。50年間心に抱えてきた想いを果たそうと、孫の大翔を一方的に引き回すのですが、大翔がブチ切れても、お構いなし。そんなふたりのぎくしゃくした関係が、なかなかコミカルに描かれていきました。
それでも、昔のバンド仲間を次々訪問して、健三郎の旅の目的と過去の悲しみを知っていくなかで、大翔は共に目的を成し遂げたいと切に願うようになっていったのでした。祖父と孫のロードムービーとして爽やかな余韻を持たせることに成功していると思います。
途中ハンセン病患者とその家族に対する差別をことさら強調し、結婚や恋愛の障害となるところが描かれるところが、ちょっとくどいと思います。現代ではほぼ忘れ去られようとしているだけに、さりげなく紹介した方が印象深くなるのではないでしょうか。
また大翔と彼女の復縁やジャズライブの実現など、後半は展開が唐突になるところもあり、ラストに向けてストーリーが詰まったような感じがしました。
それでも圧巻は、健三郎の夢を再現したライブシーン。『ジャズは人生だ』という健三郎の台詞のままに、往年のジャズバンド「COOL JAZZ QUINTETTE」の演奏は、このドラマのテーマを雄弁に物語ってくれました。往年の名曲を彷彿とさせるオリジナルナンバーから、「My Blue Heaven」など誰もが知ってるスタンダードナンバーまで色彩鮮やかに観客を魅了されせてくれます。
なかでも“世界のナベサダ”こと渡辺貞夫がジャズクラブのオーナー役で出演し、華麗なサックスプレイを聴かせるのも見所です。色っぽいナベサダの音がさらに洗練されて、透明感ある響きに聞き惚れることでしょう。
メンバーの方も、クレイジーキャッツのベーシストだった犬塚弘をはじめに、音楽にも関わってきた面々だけに、演技を越えてプレイを心から楽しんでいる感じでした。
そして、ライブの途中で健三郎の体調が急変。波乱のラストに突入していきます。
財津一郎がコメディアンの持ち味を封印して、頑固さと哀愁を漂わさせる演技が絶品でした。その頑固さを引き立てる突っ込み役の大翔を新進の鈴木亮平が好演。また、2人を見守る女性看護士と健三郎のかつての恋人という2つの難役に挑戦したMINJIは見事に演じ分けていました。
最後に、メンバーのひとりが大手ピアノ販売会社の会長という設定でしたが、エンディングを見ると、画面に映っていた社員たちはみんな財津一郎のCMで有名になったタケモトピアノの社員たちでした。
また復活した「COOL JAZZ QUINTETTE」には、ピアノが欠員だったのに、若い女性が演奏していました。あれもタケモトピアノの社員かなぁ。