「根底にはしっかりアメコミが息づいているという逆説的アメコミ」キック・アス 永賀だいす樹さんの映画レビュー(感想・評価)
根底にはしっかりアメコミが息づいているという逆説的アメコミ
この映画のおそろしいところは、一歩間違えればリアル世界から簡単にアッチの世界に入ってしまえること。
NYのヘタレ少年・デイブがコスプレして暴漢に立ち向かったように、観客たる僕らも全身タイツを着て"悪人退治"をしてしまえばキック・アス出来上がり。
だからデイブ少年が緑のタイツでチンピラに立ち向かい、見事病院送りにされ、退院後も懲りずにケンカの仲裁(という名の乱入ストリートファイト)に失笑しながらもグッと身に迫るリアリティを感じずにはいられない。
ところがほどなく長柄の刃物とスナイパーライフルでヤクの売人たちを瞬殺する少女/ヒットガールとオッサン/ビッグダディのコンビに観客は面食らう。少女は紫のヅラに同色のレザースーツにミニスカだし、オッサンはまるっきりのバットマンなんだから。
もし登場順が逆なら、バットマンかパニッシャーか。中の人は普通人だけど人外の活躍を見せるアメコミそのものになっていたハズ。
この辺の映画の作り方が実にうまい。
さらにうまいのが敵役にもアメコミ風キャラを配置するところ。
その理由が「ヒーローを倒せるのはヒーローだけ」というアメコミそのものの屁理屈で第三のヒーロー、レッドミストが登場しちゃう。
しかし映画「キックアス」が秀逸なのは、そのままアメコミ世界に没入してしまわないところ。
見た目がアメコミのヒーローだといっても、中身はヘタレ少年、復讐に燃える少女&オッサン、アメコミにハマった金持ちのボンボン。マスクの奥では痛みも感じるしケガもする。血も流せば、致命的なダメージを負えば死んでしまう。
真正面からアメコミやるには恥ずかしい。けど、根底にはしっかりアメコミが息づいているという逆説的アメコミ。それが映画「キック・アス」の正体。
さらにいうならアメコミらしいアクションにも逃げずに取り込んじゃってるといういいとこ取り。
僕のようなアメコミ好きにはたまらない一作。スパイダーマンやバットマン程度にアメコミ慣れしてる人にも変化球的にオススメ。
では評価。
キャスティング:8(ヘタレ少年役のアーロン・ジョンソン、ヒットガール役のクロエ・グレース・モレッツがいなかったら、キック・アスは成立しなかったはず)
ストーリー:7(冷静に考えればツッコミどころはあるものの、全体としてはよどみのない展開)
映像:8(むきだしの暴力描写と見事なアクションの両立)
モラル:3(お下品な言葉がいっぱい出てきます。それがいいという人は"7"としてください)
アメコミ度:9(限りなくリアルな世界設計をしつつ、まぎれもないアメコミの精神性)
というわけで総合評価は50満点中35点。