「最高のアクションミステリー映画」ツーリスト DOGLOVER AKIKOさんの映画レビュー(感想・評価)
最高のアクションミステリー映画
映画「THE TOURIST」、邦題「ツーリスト」を観た。
アンジェリーナ ジョリーとジョニー デップ共演のハリウッド映画。
近年の娯楽映画としては 最高の出来だ。
監督製作:ドイツ人 フロリアン ヘンケル ヴァン ドネルマルク
カメラワーク:オージーのジョン シール。
原作は2005年のフランス映画「ANTHONY ZIMMER」。
ソフィー マルソーが演じた エリーズ役を アンジェリーナ ジョリーが、その相手イアン アタルが演じた役を ジョニー デップが演じている。
ストーリーは
ロシア マフィアから 多額のマネーロンダリングのための隠し金を騙し取った男の名は アレクサンダー ピアス。ロシア マフィアとしてはこの男、殺しても殺し足りない。見つけ次第八つ裂きにしてやりたい。そんなロシア マフィアの面々は勿論のこと その騙し取った金を 隠し場所に使われたロンドン銀行も 預けられた金の利子を求めて訴訟をおこしている。世界をまたに賭けた金融知能犯罪に、インターポールも 必死でこの男を追っている。
しかしアレクサンダー ピアスの顔を知るものは 誰も居ない。彼の行く先を追うただ一つの鍵は、アレクサンダー ピアスの愛人エリーズ(アンジェリーナ ジョリー)だけだ。だから ロシア マフィアもロンドン警視庁もインターポールも エリーズから目を離せない。彼女の行く先々を 黒服のマフィアが追い、覆面パトカーが追いかける。それを もう2年も続けているのだ。アレクサンダー ピアスはこの2年 動きがない。
そして ある日 エリーズが 突然動き出した。
棲家だったパリを出て、長距離電車に乗るエリーズのあとを 男たちが追う。エリーズは 列車の中で、自分の隠れ蓑に利用するために、男を物色する。声をかけたのは アメリカ人、平凡な旅行者。誠実そうで世慣れない感じで ちょっと冴えない数学教師だ。エリーズは このフランク(ジョニー デップ)と車内で親しくする。
インターポールは すぐにこの男が何物であるかを突き止める。平凡なアメリカ市民。犯罪暦なし。3年前に事故で妻を失くした数学教師だ。エリーズが単に列車のなかで偶然出会っただけの男だと承知している。しかし、インターポール内の ロシアスパイが この男こそアレクサンダー ピアスだと思いこんで 誤った情報を ロシア マフィアに送ってしまう。ロシア マフィアは フランクを拉致しようと計画する。
場所を ヴェネチアに移して エリーズと フランクと アレクサンダー ピアスと思われる男と ロシア マフィアと インターポールとの追いつ追われつの ハラハラドキドキが展開される。
これから先は ミステリー仕立てなので、筋は言えない。
アンジェリーナ ジョリーが とてもとても美しい。これほど美しく映像に納められた彼女の姿は 久しぶり。「ソルト」では 変なかつらをかぶって、アクションは良かったけれど、美しくなかった。今回の映画では これでもか これでもかと 豪華で贅沢な衣装に身をまとい カメラワークも 完璧に彼女美しさを際立たせていた。
カンボジア、エチオピア、ベトナム人孤児を養子にしたうえ 女の子と男女の双子のお母さん。ブラッド ピットの奥さんをやりながら 国連難民高等弁務官事務所の親善大使。2010年2月のハイチ大地震では、ブラッド ピットとともに 100万ドルを国境なき医師団に寄付した。こんな ことをする人が 美しいと嬉しい。
ジョニー デップも とても良い。何が何だかわからないうちに、ギャングから追われ、命からがら逃げ回る数学教師の役が とても似合っている。
何と言っても 舞台が あのヴェネチアだ。
ホテルからゴンドラで 正装して舞踏会の会場に向かうアンジェリーナ、、、ホテル ダニエラのスイートルームのベッドで眠るアンジェリーナ、、ウォータータクシーで手錠をかけられたまま 運河に落ちるのデップ、、、パジャマ姿でセントマルコ広場のマーケットに屋根から飛び降りるデップ。
ゴンドラでまわった 数々の歴史ある建物や風景が よみがえって来る。
ヴェネチアを訪れたことのある人にとっては 嬉しい光景ばかりだ。
撮影のほとんどが ヴェネチアで行われたそうだ。
サンタ ルチア駅、セント マルコ広場、グランドカナル(大運河)、モトスカーフィ(ウォータータクシー)、ヴァポレット(乗り合いタクシー)、サンタ マルコ寺院、パラッツオ ドオモ(元首の館)、ため息の橋、リアルト橋、ホテルダニエラ、ムラノグラス ファクトリー、、。
ヴェネチアは 100数十の島々からなり、これをつなぐ4百数十の橋で構成される街だ。すべての建物は数百年たっている。過去の栄光と繁栄を物語る 古い商人貴族の館。暗くて狭い小道。ホテルがそっくりそのまま博物館で美術館であるようなホテル ダニエラ。そのスイートルームの 調度品の数々などを画面で観ると美しすぎて 哀しくなるのは どうしてだろう。
この街が日々、沈んでいっており いずれは街そのものが なくなっていくからではないだろうか。水の都 ヴェネチアは滅びゆく貴族の哀切の想いがする。
ナポレオンは このサンマルコ広場を「世界で最も美しい客間」と表現した。ゲーテ、スタンダール、ヘミングウェイ みなヴェネチアを 特別に愛した。ヴェネチアは そんな特別なところだ。
シェイクスピアの「ヴェニスの商人」で有名だが、世界で初めて ユダヤ人ゲットーができた街でもある。
映画「旅情」では キュサリン ヘップバーンが ヴェネチアの運河に落ちて 男に会い 失恋をしてアメリカに帰っていった。
トーマス マンは「ヴェニスに死す」で、美少年に恋をする老作家を描いた。これも素晴らしい 忘れがたい映画になった。ペストがはびこるヴェネチアが 悲劇を予感させていた。
ルキーノ ヴィスコンテイは 自身がシチリアの没落貴族出身だから 映画「山猫」で滅びゆく貴族を描いた。この映画は 洗練されたイタリア貴族文化の華麗や退廃を 世界遺産に復元するかのように描いた一大叙事詩だ。バートラン カスターとアラン ドロン、クラウデア カルデイナーレの名優たちによってイタリアの 滅び行く栄光の歴史が描かれていた。
ヴェネチアは特別な風格と香りを持った街だ。一度訪れただけで いつまでも恋しいと思う。
そんなヴェネチアを舞台にした スリラーアクション映画「ツーリスト」。
とても良かった。日本では3月11日公開。
見る価値ありだ