「大味な演出に、イマイチサスペンスとしての面白味が欠けてしまったようです。」グリーン・ゾーン 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
大味な演出に、イマイチサスペンスとしての面白味が欠けてしまったようです。
東宝東和試写室でのスニークプレビュー試写会で見てきました。
作品が公式発表されたので、レビューアップします。
マット・デイモン&ポール・グリーングラス監督コンビなので『ボーン』シリーズの面白味を期待している人には、率直に言って、ちょっとがっかりな内容でした。ただ手ブレと超高速カット割を多用したスピーディーな展開は健在です。
ラストのバトルシーンでは、ラストまで一気に突っ走ります。その間ヘリコプターが何機も打ち落とされたり、派手な演出が目立ちます。
但し、『ボーン』シリーズの面白さというのは、細かく計算されたクライシスだったり、アクションだったと思うのです。その点本作では大味な感じがしました。
「グリーン・ゾーン」とは、かつて連合国暫定当局があったバグダード市内10km2にわたるエリアのことです。イラク暫定政権下の正式名称は「インターナショナル・ゾーン」だったものの、「グリーン・ゾーン」の呼び名が一般的でした。物語はアメリカ占領下のグリーン・ゾーンで起こる戦争アクション&サスペンスです。
主人公のマット・デイモンが扮するロイ・ミラーは、CIAの上官による大量破壊兵器調査を補佐する下級准尉。ところが、何度調査に出かけても、目的の「お宝」が出てこないことからロイは、疑問を持ちます。
この疑問から、疑惑は大きくなり、ロイは次第に大量破壊兵器の情報が国防総省およびホワイトハウスのねつ造ではないかという疑いに繋がっていきます。
国防総省がその証人として名前を挙げていたイラク軍アントニ大佐の身柄を巡って、証人を抹殺したい国防総省と大佐を守る部下達とCIAのブラウンとロイが三竦み状態で奪い合うところがクライマックスで描かれます。
戦闘シーンはど迫力なのですが、国防総省が張り巡らす陰謀には全然スリル感がないのが致命的です。例えば、独自に調査するロイが邪魔な国防総省は、彼を暗殺する決定をするものの、全くそんなシーンはありません。安泰なロイを見ていると、緊張感を感じなくなりました。
ロイ自身のキャラも、イマイチ使命感に乏しく、面白味に欠けるのですね。もう少し国防総省やその背景にあるホワイトハウスの陰謀を強調した方が、メリハリが出てきたと思います。
余談ですが、たまたま『ハート・ロッカー』試写会の直後で見てしまったため、同じ爆弾処理シーンで、あまりの迫力の違いに、本作がつまらなく見えて仕方ありませんでした。
本作はイラク戦争を仕掛けたアメリカを一方的に悪と決めつけています。作品で登場するイラク人もベタで、アメリカを非難する人ばかりです。そこには、一切アルカイダやフセインの非道ぶりは登場しません。
けれども実際には、フセインによって迫害を受けてきたシーア派やクルド人がいたわけだし、アルカイダによるテロの脅威は、決してアメリカの自作自演ではないのです。
もしフセインをのさばらしていたら、世界は予言されたとおりの深刻なイスラムvsキリスト教国の最終戦争へ、雪崩を打って突入していたでしょう。
本作のように、大量破壊兵器を盾に取った反米一本槍では、テロが拡散するばかりであったのではないか。そんな疑念を抱かせる作品でした。
その点政治的な主観をいれない『ハート・ロッカー』のほうが、かえって反戦を印象強くしていると思います。
ところでマット・デイモンは2007年から2008年にかけての全米脚本家組合ストライキの厳しい撮影スケジュールの最中であっても、スティーブン・ソダーバーグ監督の映画『インフォーマント!』の撮影が始まる2008年4月15日に間に合うと確信して、その直前にクランクアップする予定であったこの映画に参加したそうです。『インフォーマント!』では、かなりの体重増に挑戦しただけに、大変だったことでしょう。