劇場公開日 2010年12月4日

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「生まれたての、悪意」白いリボン ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0生まれたての、悪意

2011年3月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

難しい

「ファニーゲーム」「隠された記憶」などの作品で知られるミヒャエル・ハネケ監督が、カンヌ映画祭において初のパルム・ドールを受賞したミステリー作品。

清々しいまでに悪趣味を貫く作品である。

「混じりっ気なし、純粋無垢、無添加無着色、ぷるぷるつるんのタマゴ肌」な、どす黒い悪意が、物語の底辺をどろり、どろりと澱みながら流れ出し、2時間30分近い長尺の世界を支配する。

その陰湿な空気は、観客の中途半端な解釈であったり、物語への安易な接触を完膚なきまでに叩き潰してしまうほどの強烈な破壊力を存分に内包し、私達に突き付けてくる。上映終了後に感じてしまう劇場全体を覆い尽くす敗北感、脱力感の根源は、ここにあるとしか思えない。

閑静な、美しい景色を讃えた小さな村。その日常に唐突に忍び寄ってくる一つの悪戯。ハネケ監督はこの悪戯を皮切りに、随所にささやかな、それでいて気味の悪い悪意を村のあちこちに撒き散らし、物語の住民達を、同時に観客を疑心暗鬼に誘っていく。

これまでに発表してきた作品においても、解釈不可能な人間の心の機微を、程よいユーモアにくるんで料理してきたハネケ監督。だが、今作では剥き出しとなった負の感情を容赦なく、回り道無しに描き切っていく荒業に挑む。

物語もまたあって無いような抽象的な要素を積み重ねて、まさに観客を置いてけぼりにする覚悟で疾風の如く走り去っていく。悔しい。憎らしい。でも、格好良い。

生半可な覚悟で理解に挑むと、立ち直れないまでに心が殴り倒される本作。だが、ここまで悪趣味な世界を論じておきながら、ハネケの暴走世界に、無作法な荒っぽさに、私は魅せられてしまうのである。

生まれたての悪意は、麻薬の味がする。

ダックス奮闘{ふんとう}