「寒い国から来たスパイより愛をこめて」ソルト 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
寒い国から来たスパイより愛をこめて
P・ノイス監督の代表作といえばやはりポリティカルアクション『パトリオットゲーム』『今そこにある危機』だと思うが、今回も『冷戦時代から連綿と続くロシアンスパイの国家転覆計画』という実にポリティカルな要素が物語の肝となっている。
予告編を観た時にはその辺に気付かなかったので、物語序盤は「こいつは意外とスケールのでかい映画だッ!」とワクワク。
主人公ソルトがCIA局内を脱出し、高速道路帯を逃走するまでの長いアクションシークエンスもなかなかの迫力で、期待は高まる。
その後もアクションは盛り沢山だし、何より主役のA・ジョリーがまァとにかくカッコイイ。肉体的・精神的にどれだけ打ちのめされようが、己の感情を押し殺してひたすら冷徹に戦い続けるアンジーはドライアイスのような高熱を放っている。
……だが、いっこうに話が盛り上がらないんである。展開がせわしないというか、殺伐としているというか、とにかくこちらに感情移入させる暇を与えてくれない。
なんというか、余裕が無いように感じてしまうんですわ。
『ロシアより愛をこめて』以来、ロシアンスパイ御用達となっている(?)必殺ウェポン・仕込み靴が登場した時にはニヤリとしたが、それ以外にユーモアを感じさせるシーンは一切、全く、これっぽっちも見当たらない(笑)。
いや勿論、登場人物に感情移入させたり、ユーモアを感じさせたりすることだけが『良い映画』の条件だとは思っていない。
だがこの映画からA・ジョリーという稀有な魅力を放つ女優を取っ払った時、果たしてこの映画に何が残るのか?
『ボーン』シリーズに冷戦時代の置き土産を付け加えただけというのは言い過ぎかも知れないが、正直真新しさは感じられない。
ロシアンスパイの陰謀を描いた映画は幾らでもあるし、北朝鮮の拷問シーンが登場する『ダイ・アナザー・デイ』は既に7年前の映画だ。
逆に言えば、これくらいアンジーの魅力を引き出してみせた映画もなかなか無いと言える。この映画最大の見所はズバリ彼女の一挙手一投足。彼女のファンなら必見の映画だろう。
ところで本作のCMではま〜た『騙される』だの『騙されない』だのというツマラナイ宣伝をやっているようだが、そんなドンデン返しは期待しない方が良いです(客引きの事ばかり考えず、映画の魅力を正しく伝えていただきたいものだ)。
ノンストップのヒロインアクションとして、サクッと楽しむべし。
<2010/08/01鑑賞>