行きずりの街 : インタビュー
それでも、12年という月日は波多野にとっても、雅子にとっても、あまりにも長すぎるのではないか。小西は、「そこから恋愛になれば運命かもしれないし、『お互いに頑張りましょうね』って大人の会話で終わるかもしれない。過去を引きずったまま一生を終えるより、もう1度チャンスをもらえたという喜びや期待は大きいんじゃないかな」。また、再会の場が店で良かったと女心をのぞかせる。「お店だから着付けもしているし、人に見られてもいい状態でいるじゃないですか。堂々と振舞うべき状況で再会できたことは良かったのかなと思います。日常だったら、隠れちゃうかもしれないですね」
仲村は、主演が決まった直後に阪本監督と面会し、その日のうちに信頼を深めていったという。「監督が、『現場に入るとあまり食事をしなくなる。どんどん痩せていって、以前は気絶したこともあるけれど、気にしないでくれ』と言われたんです。それは、翌日の撮影のことを考えると眠れなくなる。その状態で現場へ行き、弁当を食べて眠くなる自分が許せないから飯は食わないんだそうです。会って15分くらいなのに、その話を聞いて『この人、信用できる人だな』って感じたんです」
小西も、仲村の話に強い調子で同意する。「現場の雰囲気が何とも言えない独特な感じで、ものすごい緊張感であふれているんです。ただ私を含め、スタッフさんや細部にいたる人たちまでもが、現場に来るのが楽しくて仕方がない。監督だから付いていこうというのではなく、監督ご自身が持たれているもの、人間性が現場に渦巻いているからこそ、こんなにも幸せな現場になったんじゃないかと感じましたね」
撮影中から完成した映像を見るまで、仲村の阪本監督への信頼は1度たりとも揺らぐことはなかった。「僕だけでなく全スタッフ、全キャストが、『この映画について最も葛藤(かっとう)し、悩んで答えを出しているのは間違いなく阪本順治さんだ。この人が一番考えて、この映画にかけている』という思いがあった。それは最後まで変わらなかったし、出来上がったものを見て、その思いはさらに強くなりましたね」
そんな2人にとって最も印象的なシーンは、雅子の部屋で互いが自らのうちに秘めた思いを包み隠さずぶつけ合う場面だ。仲村は、一連のシーンを昨年12月の初号試写で見た際、涙を流したそうで「今年の8月に見たときも、同じ場面で涙が出てきたんです。なぜなのか、自分の中でも解決できていないんですよね。波多野が泣いていないのに、見ているオレがどうして泣くんだろうって」と述懐。そして、「全編を通して他人事のような感じがするんですよね。生々しいんだけど、自分が演じたのではないような気がする。そういう感覚に陥ったという意味でも、印象的ですね」と語る。
小西にとってこのシーンは、あるセリフに対して迷いを感じていたという。「感情が高ぶっているときに、そんな話し方をするのかなって。愛情があり、距離感もあり、でも近づきたいという思いもある。複雑な心境のなかで、そういう話し方をすることが私は日常的にないので悩みました」。それでも、「監督がその点について何もおっしゃらず、『これで撮っていく』という声を聞いた瞬間に、この方向でいいんだ……って思わせてくれました。たったひと言で安心させてくれる信頼感がいつもりましたね」と仲村と視線を交わしながら、笑顔で振り返った。