「我々は無数のミカ」パラノーマル・アクティビティ 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
我々は無数のミカ
超常現象に悩まされるケイティ。しかしボーイフレンドのミカはそれをカメラに収めようと躍起になるばかりで、ケイティの意見には耳を貸そうともしない。真夜中に恐ろしいできごとに見舞われた瞬間には自分だってケイティと一緒になってビビり散らかしているくせに、翌朝になるとカメラが捉えた超常現象の片鱗を眺めてはコレクターじみた薄ら笑いを浮かべている。
それを見て我々は彼の浅薄さ、愚かさにもちろんイライラさせられるのだが、ちょっと待ってほしい。本作において我々の視覚を担保してくれているものは何であるか?それはミカのカメラをおいて他にない。ミカがカメラを回しているからこそ物語は進んでいくのであり、彼がケイティに配慮してカメラを手放してしまったならばそこで映画は寸断される。
つまり我々は表向きケイティの心情に傾斜しているようで、その実でミカの無遠慮な欲望が機能し続けることを期待している。我々は知らず知らずのうちにそうした自己矛盾の袋小路に追い詰められていてるのであり、気づいたときにはもう「参りました」と白旗を上げるしかなくなっている。
いや、最後でハッとそのことに気づくのならまだいい。もっと怖いのは途中で気づいてしまうことだ。そうなるともう辛くてたまらない。自身の欲望が歯止めも利かぬまま一直線に破滅へと向かっていくさまを視界いっぱいに無理やり見せつけられるのだから。それでいてケイティが助かってほしいなどと心の隅で思ってしまうのだからもう救いようがない。
しかしまあ本当に一番恐ろしいのは本作に対する評価が「ケイティが可哀想!ミカはクソ!ホラーとしても見せ場ナシ!」的なもので横溢していることかもしれない。仮にも映画が好きと言い張るのなら、ミカの妄執性にシネフィルとしての自分自身を見出せすらしないでどうする、と言いたくなってしまう。