劇場公開日 2010年10月2日

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「もう少しスープをメインに持ってきて滋味深く描いてもよかったのではと感じました。」スープ・オペラ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0もう少しスープをメインに持ってきて滋味深く描いてもよかったのではと感じました。

2010年10月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 本作は、30半ばのルイが主人公。ちょっと婚期を諦めつつも、意識はしているという微妙な気持ちを主演の坂井真紀が好演しています。
 ルイを取り巻く生活の中心には、食卓があり、そこにいつも、スープが登場していました。シンプルだけど手のかかるスープのように、人間関係は一筋縄ではいかない。人生の滋味が染み渡るような作品とはなっていて、ラストにはホロリとさせられます。
 もう少しスープをメインに持ってきて滋味深く描いてもよかったのではと感じましたけど。

 ストーリーは叔母と二人暮らしをしていたルイだったけど、叔母が意外にも結婚して、家を離れて独り暮らしを始めたとき、ひょんなことから父親ほど年の離れた画家のトニー、雑誌編集者見習いで年下の康介と3人で暮らし始めるというもの。この二人共に、全くルイとは縁がなく、いきなり同居暮らしを始める設定に、引っかかる人は少々きついかも知れません。
 本作は、ベタに近いくらい登場人物が強引で、あれよあれよという間に、ルイに要求を突き付けて、認めさせてしまうのです。ちょっとあり得ないくらいの展開ですが、そのぶん強く言われると断れないルイの性格も描かれているので、何とかバランスはとれています。加えて、いきなり同居を申し出たトニーには、ルイとの関係である秘密を持っており、後半にその秘密が明かされるとき、なるほどと思いました。

 さらに、フランス映画をオマージュしているのか、劇中にはコミカルでシュールな設定が散りばめています。例えば銀河鉄道に登場しそうな車掌が登場して意味なく手持ちベルを鳴らして歩いているとか、筋とは無関係の楽隊が登場して、サウンド・トラックを演奏しているとか。音楽はパリをイメージする曲調で感じはとてもよかったです。

 予告編では、ベタでシュールなところを省いて編集しているため、とても落ち着いた作品のように見えます。個人的な好みとしては、あまり濃いキャラにしないで控えめな演出のほうが、もっと作品の世界に入れたと思います。最近やっと映画館で『カモメ食堂』を見たばかりなので、余計に比べてみてしまいました。本作は『カモメ食堂』などのロハスな食の映画とは、真逆の演出だろうと思います。ファンタジー狙いなら、もっとムードを大切にして欲しいと思います。

 それにしても、あり得ないと思える設定の多い作品でした。冒頭から叔母のトバちゃんが20歳年下の若手医師からプロポーズされたり、ルイも年下の康介に一目惚れされて、いきなり自宅に押しかけられて同居を認められさせられたり、はたまた友人の編集者にはポルノまがいの小説家を紹介されたら、こちらも作家にいきなり自宅に押しかけられて、モデルになってくれ~、結婚してくれ~と迫られる有様。突っ込みたくなる性格の方には、なかなか落ち着いて見にくい作品でしょうね。
 特にラストの夢のシーンで、登場人物が近所の廃墟となったドリームランドに集結し、舞踏会を開くシーンは、一種のカーテンコールに相当するシーンなのでしょうけれど、蛇足にしか感じられませんでしたね。
 劇中度々登場する廃墟のドリームランドですが、舞踏会シーンではきれいにライトアップされてたばかりでなく、さび付いていたメリーゴーラウンドがピカピカに磨かれて、見事に回転したのには驚きました。美術さんが相当に頑張りましたね。

 坂井真紀の純朴さに加え得て、トニーを演じた藤竜也の何処か惚けつつも、愛しく思っているルイがピンチになったとき見せる男気に溢れた演技もよかったです。

流山の小地蔵