劇場公開日 2010年10月2日

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「ぎりぎりの、フィクション」スープ・オペラ ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ぎりぎりの、フィクション

2011年6月17日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

笑える

幸せ

「星守る犬」などの作品で知られる瀧本智行監督が、坂井真紀を主演に迎えて描く、群像劇。

この作品の作り手は、バランス感覚が非常に優れた人物であると断言させていただく。一人のアラサー女性が過ごす、即席家族の物語を本軸に据えて展開される物語。当然、作り手としては雰囲気の選択を迫られることになる。ドキュメンタリー調に人間を描き、現実に即した世界観を持ち込むか。それとも、敢えて幻想的な妄想劇として、人間に非現実性を植え付けるか。

結果、その両者の利点を的確に抽出した良質な佳作としての道を選んだのが本作である。ドラマ、映画などで等身大の女性を可愛く、凛々しく、時に辛辣に形にしてきた坂井真紀を主演にすえながら、どこか異邦人の雰囲気を持ち、「常に、人生は旅です」なんて言いながら幻想の空気を漂わせる藤竜也を相手役に置く。

作り手がこの物語に対する姿勢が、このメインキャスティングを見た限りでも緩急織り交ぜた試合展開を創造させる。

遊園地に、図書館、おまけにどこまでもレトロな邸宅。浮世離れした空間を魅力的に見つめながら、台詞は原作がもつ冷静沈着な観察眼を生かした複雑な世界。空想と、現実。どちらかに転がっていきそうな危うい瞬間に、坂井、藤の雰囲気を信じた使い方で、ぎりぎりのフィクション世界を成立させている。

「群像劇、ここにあり」の、個性、イメージ様々なキャストを在るべき場所に配置して作り上げた、作り手の創意工夫が光る一品。あらゆる世代の方々が楽しめる、疲れた心と体に美味しい穏やかさに満ちている。

ダックス奮闘{ふんとう}