「命の水を「キャピタリズム」に巻き込んではならない」ブルー・ゴールド 狙われた水の真実 こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)
命の水を「キャピタリズム」に巻き込んではならない
昨年、某ビール・飲料メーカーどうしの合併が話題になったとき、どうして今、世界に対抗するほどの大きな企業にする意味があるのか、少し疑問を感じていたのだが、この作品を観たあと、その疑問の一部分の回答を見つけたような気がした。いまや水は、石油以上に有数の商品となっている現状に一石を投じているのが、この作品の主旨であり見どころだ。
この作品では、世界の水の危機的な現状と水に群がる企業の実態を観るものに訴えかけている。それは、水に関してそれほど不自由をしていない(それでも夏になると渇水が話題になるが)日本と日本人には他人事のように感じられるかもしれない。しかし、河にコンクリートのダムを造り、水を売買するために多量に吸い上げている現状を訴えかけてるにつれて、徐々に水の問題とは今そこにある危機であることが理解されていく。特に、水の利権を巡って住民を追い込み、水道の民営化につけ込む企業の悪辣さは、怒りをおぼえるほどだ。この作品ではまさしく、水のためにこれから戦争もしかねない、企業や国のエゴイスティックな「キャピタリズム(資本主義)」を鋭く突いている。日本でも、大きな企業に豊かに湧く水が支配されるかもしれない動きが見え隠れしているからこそ、この作品が訴える一言一言は、印象に残るものばかりである。
企業が水を支配したがるのは、温暖化によって地球から水が枯渇しかかっているから売り物になる、という危機的な側面もあるからなのだが、この作品では、企業とそれに関わる人達への取材は細かいのだが、温暖化の部分は映像が少ないように感じたのは、少し残念に思えた。もう少し、現状の自然とそこに暮らす人々との水での関わり合いを、もっと取り上げていれば、さらに訴えに力強さが増したのではないかと思う。
それでも、この作品で描く水の危機は、ダムの問題など日本で暮らす我々にとっても深い関係があるだけに見過ごせないものだ。この作品を観られなくとも、こういう内容のドキュメンタリーが公開されたことを記憶しておくだけでも、意味はあるような気がする。
ところで、この作品を撮った監督の話によると、水を求めて地球に降り立った宇宙人を描いた「地球に落ちてきた男」の続編の製作過程から、水の現状を訴える映画を撮ることを思いついたらしいのだが、「地球に落ちてきた男」の何年も前、ゴジラシリーズの「怪獣大戦争」で、すでに、地球の水を求めてキングギドラを送り込むX星人をとりあげている。水に関しては、日本のSF映画が先鞭をつけていることを、ぜひこの作品の監督に教えてあげてほしいと思う。