ずっとあなたを愛してる : 映画評論・批評
2009年12月22日更新
2009年12月26日より銀座テアトルシネマほかにてロードショー
家族の愛が、主人公の乾いた心に水と光を与えていく
俳優自身が、「この映画に出るために今まで頑張ってきた」と感じるような作品。クリスティン・スコット・トーマスにとって、「ずっとあなたを愛してる」はそんな作品だと思う。彼女が演じたジュリエットは、生きることに絶望しているが、かといって死ぬこともできない。ただ機械のように息をして、目的も到着点もない、宙に浮いたような日々を送っている。その乾ききった表情を見ただけで、一体何があったのかと引き込まれてしまう。
クリスティンはコメディからロマンスまで何でもこなせる上手い俳優だが、目の光が強すぎて時に冷たい拒絶感を感じさせることがある。だがジュリエットに見えるのは冷たさではなく無常観だ。やがて分かるのだが、彼女は幼い息子を我が手にかけ、15年の刑期を終えたところだった。苦しみを訴えず、救いも求めず、全てに心を閉ざしてしまったジュリエット。無言でタバコを吸う彼女の全身にその深い絶望感が漂って、クリスティンが到達した演技の高みに感動しないではいられない。
フィリップ・クローデル監督は、現実の社会に戻ったジュリエットに寄り添って、家族の愛が、彼女の乾いた心に水と光を与えていく様子を静かに見つめ続ける。ありのままのジュリエットを受け入れ愛を注ぐのは妹のレアだ。レアが、犯罪者を家族に持ったトラウマを乗り越えて姉を受け入れるのは、愛し合って暮らした子供時代の記憶があるから。子供時代の幸せな家族の記憶は、こんなにも人の心を豊かに育てるのだという静かな訴えに、共感の涙がこぼれた。
(森山京子)