劇場公開日 2010年10月30日

「尾形係長は、なぜ井上を殺してでも、治安維持の理想を果たしたかったのか?その心情が理解できませんでした。」SP 野望篇 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0尾形係長は、なぜ井上を殺してでも、治安維持の理想を果たしたかったのか?その心情が理解できませんでした。

2010年11月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 確かに邦画どころかハリウッド映画を向こうにしてもひけの取らないアクションシーンを冒頭から見せつけて、触れ込み通りの映像を見せます。
 特に冒頭の井上がテロ犯人を追い掛け追い掛け、格闘の末に捕らえるところは、もっとCGを多用してごまかしているだろうと予想しててたのに、ガチンコ勝負で汗を流しているのは意外でした。さらに井上を演じる岡田准一がフィリピン武術「カリ」の猛特訓してきたその成果として、とても見応えある接近戦シーンを見ることが出来ました。
 役柄に体当たりしている雰囲気は満点で、その意気込みは素晴らしいと思います。その接近戦を活かすためにも、井上は殆ど拳銃を抜かず、どんな相手でも素手で立ち向かっていくのです。
 ただ、そこは拳銃だろうというシーンでも、どうして井上は素手にこだわっているのか疑問は残ります。時には警棒も忘れていて、同僚に借りたりする不用心さなんです。

 まぁ、そんな細かなところの突っ込みよりも、本作の屋台骨を支える「連続ドラマ版で残された謎」のところで、致命的な疑問点を持ってしまいました。
 「野望篇」のキャッチコピーは「アクションを、起こせ」、「衝突する二つの運命。」となっています。これは井上の上司の尾形係長が黒幕の一人となって、テロを仕掛けることで国民に治安維持の重要性を仕掛けるという信じがたい設定。警官や自衛隊の中には、そういう妄想をいだく輩がいる可能性はあります。しかし、本作ではそのテロに身体を張って防ぐいくのが、他てでもない尾形が育てた自慢の部下たちなのです。
 なんで子飼いのかわいい部下を犠牲にしてまで、尾崎は自分の信念を貫こうとするのか、その信条が解りません。しかも井上とは警備警察の改革では、同じ価値観を分かち合える同志でもあったのです。SPとしていつも壁になるだけでなく、積極的に「アクションを起こ」して犯人を追い詰め、テロを未然に予防することが大事なんだということを、お互いの信念として行動してきたはずでした。
 しかし、尾崎はそれを拡大解釈して、自分からテロを仕掛けるマッチポンプとなり、社会不安を煽ることで、SPの活動領域を治安維持まで拡げることを狙っていたのです。
 「野望篇」は劇場版の前編に当たるため尾崎の心理を充分にネタバレしていないのかも知れません。けれども尾崎と井上との人一倍つよい絆を描いてきたTVドラマ編を見てきた視聴者は、この設定には納得できないものでしょう。

 そこで考えられるのは、ストーリーを何が何でも、尾崎と井上が対決するように仕向けたいのではないでしょうか?それを運命づけるように、井上の少年時代に、井上の両親が巻き添えになって殺されたテロ事件当時、尾崎もその現場にいて、数奇な運命を辿って二人は上司と部下の関係になったことを、ことさらカットバックして強調します。
 しかし、その間に二人が対立するようなことは全くなく、ただ尾崎の『残念だょ~』という台詞に収斂されていくだけなのです。

 例えば『24』season6では、ジャック・バウアーを父親や実の兄が殺そうとします。それは肉親としての憎しみの感情ではなく、あくまで国家の安全保障の確立のための止むに止まれない犠牲として、わが子を殺す選択をした父親の迷える姿も描かれていました。
 本作では、バウアー父のような心情を描くところが尾崎にないのです。しかも本編テロ事件途中に尾崎は殆ど出番がありませんでした。

 堤真一が演じる尾形のキャラは悪くないだけに、来春公開される「革命篇」でのネタバレに期待したいところです。

 ところで、与党・幹事長の伊達の護送には、何か起こりそうに見えて何も起こさず肩すかしを仕掛けていて、次の内閣官房長官の田辺の護送のときに事件を起こさせる仕掛け方はよかったと思います。ただ、赤坂あたりから国会までのやく3キロを徒歩で護送する中で、テロが4波に渡って繰り返されるのは疑問に残りました。井上たちSPチームの行く先々にテログループが待ち構えているのです。そしてSPチームの犠牲が出ながらも、警察の応援を仰がず、チームメンバーだけで逃げ切ろうというとする判断は疑問です。まぁ、すぐ応援に来られてはドラマとしては見せ場がなくなるのでしょうけれど。

 それとSPチームのお約束として、毎回犯人の襲撃を受けて、全員が重傷を負います。しかし決して死なないことがお約束です。TVドラマ編では、全員が犯人に撃たれて、入院しているはずなのに、劇場版ではピンピンしていました。今回も相当な深手を負っているけど、きっと次の「革命篇」ではみんな元気に登場していることでしょう。
 あと井上の殆ど予知能力者に近い特殊なシンクロ能力にも説明が必要でしょうね。

 語れば尽きないドラマ上の突っ込みどころです。まぁそういうもんだと流せば、なかなかアクションに見応えのある作品だとお勧めできますよ。

流山の小地蔵