「凍った川を渡る、儚い夢」フローズン・リバー ken1さんの映画レビュー(感想・評価)
凍った川を渡る、儚い夢
まず、無知を承知で告白するのだが、ニューヨーク州は結構広く、カナダと国境を接する地域があることを知らなかった。僕らがよく口にする「ニューヨーク」は「ニューヨーク市」のことであって州のことではない。日本に住んでいてアメリカ通を自認していてもこういうことを知らない。恥ずかしいことだが、映画を通じて学ぶことは実に多い。
なので、映画としては珍しく、ニューヨークが舞台であっても摩天楼は登場せず、川も凍るほどの田舎が舞台だ。そして、モホーク族の居留地が物語のもう一つの舞台となる。
ネタバレ投稿は好きではないので、これ以上の詳細は書かずにおきたいが、触りだけ紹介したい。
この映画の公開は2008年(日本公開は2010年)。当時より現在の方が悪くなっているかもしれないが、貧困地域に住む人々の環境は劣悪だ。この映画の主題はそこにある。主人公は、旦那に逃げられ、子供と借金(実際にはローンの残金)だけが残っているパートで働く主婦と、居留地のトレーラーハウスに暮らす先住民族の若きシングルマザー。
物語は二人が密入国を手助けし仲介料を手にすることによって展開していくが、密入国させる外国人は彼らよりさらに貧困である。地元警察官たちも主人公や密入国者の厳しい境遇を知っていて、彼らに同情すら感じている。
正義とは何か。罪とは何か。
幾重にもなる貧困の階層の底で、恐怖に抗いながら渡る凍った川。彼らが掴もうとする儚い光は、人間として保障されるべき最低限度の幸福ではないのか。
この映画が語りかけるテーマは解決しがたく、あまりにも深い。
コメントする