「予定調和的ではありますが、結構ほろりと来ます。」RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語 勝手な評論家さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0予定調和的ではありますが、結構ほろりと来ます。

2010年5月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

将来を嘱望されていたエリートサラリーマンが、母親の病気や同期の事故などに直面し、これまでの自分の人生を見つめ直して、子供の頃からの夢の「一畑電車の運転手」になると言う話。

物語の舞台となっている一畑電車ですが、島根県出雲市を営業エリアとする鉄道会社です。劇中では、ひなびた地域を二両編成の電車でゆっくりと走る典型的なローカル線として描かれていますが、実際には特急も走っている路線です。まぁ、ローカル線であるのは間違いないですし、経営的に厳しいのも間違いないとは思いますが、画面から得られる雰囲気だけだと、若干誤解してしまいそうです。

主演の中井貴一や本仮屋ユイカなど、演技派が揃っているだけあって、中々見せる内容になっています。唯一難点を上げれば、この作品がデビュー作となった、三浦友和・山口百恵夫妻の次男三浦貴大ですかねぇ。演技が固いと言うか、演技しきれていないと言うか、何と言うか。終盤の野球のノックシーンではいい感じでしたが(笑)。まぁ、デビュー作なんで仕方ないのかもしれませんが、今後の研鑽に期待します。それと、ポスターなどから得られた印象だと、筒井と宮田の絡みがもっとあるのかと思ったんですが、意外に少なかったですね。

宮崎美子は、筒井の母の介護士と言う微妙な微妙な位置付けの配役なんですが、意外な存在感を示しています。彼女の笑顔が、優しい介護士と言う雰囲気を醸し出していて、良いのかもしれませんね。宮崎が演じる森山を見ていた筒井の娘の倖が、職業として介護士を選択するのは、必然だったのだと思います。

電車の車両的な話で言うと、筒井が乗務する車両にデハニ50系が結構使われています。物語的に、話が作れるので仕方ないのかもしれませんが、この車両は既に引退して、保存されているんですよね。映画の撮影のため、2009年8月末に本線を久しぶりに走行しましたが、8月末で車両の法定検査の期限が切れると言うギリギリのタイミングの中、わずか二日の撮影で、何とか撮りきったそうです。

中々いい映画だと思うのですが、もう少し「こうなれば」と思うところも有ります。一つは、先にも記しましたが、筒井と宮田の絡みですね。「自分の夢を追求する」筒井に触発され、宮田も野球に再挑戦するのかと思いきや、そうでも無く肩透かし。期待する雰囲気もあったので、どうかなと思います。また、筒井がいきなり会社を辞めても、妻の由紀子は「夢を追えば良い」と、あまりにも物分りが良すぎる点と、物語の終盤、由紀子も自分の夢を叶えていて、お互い、東京と島根という別れた生活というのも、物語の描き方としては、もう少し別の描き方が有ったのではないかとも思います。ヘタをしたら物語を破綻させかねないですからね。

物語の筋は、上記の様に微妙なところは有りますが、セリフは結構言葉を選んで書かれています。特に、物語終盤の「ちゃんと終点まで乗って行ってくれよな。」と、肇が由紀子にかけた言葉は、文字通りの意味と、人生最後まで一緒にいようと言う、二重の意味があったと思うんですが、どうでしょうか?

物語の特性上、観客はやはり40~50代がほとんど。現代サラリーマンには有りがちなテーマで、その世代には響く話ですからね。ストーリー的には予想通り、最後の方には思わずホロリとさせられてしまうシーンがあります。私も思わず、グッときてしまいました(苦笑)。物語が微妙なところが有ったり、時間がちょっと長くて、冗長かなぁとも思いますが、全般的にはいい作品だと思います。

勝手な評論家